経済・企業

H3成功で宇宙輸送の維持にめども低コスト化や設備老朽化など課題山積 鳥嶋真也

種子島宇宙センターから打ち上げられたH3ロケット試験機2号機(筆者撮影)
種子島宇宙センターから打ち上げられたH3ロケット試験機2号機(筆者撮影)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月17日、新型ロケット「H3」試験機2号機の打ち上げに成功した。昨年の1号機の打ち上げ失敗を乗り越え、日本の新たな主力ロケットがようやく産声を上げた。だが、これから先には、多くのハードルが立ちはだかる。

 H3はJAXAと三菱重工業が共同開発しているロケットで、現在の主力ロケット「H2A」の後継機として、日本の宇宙輸送の自立性を維持し続けるとともに、国内外から人工衛星の商業打ち上げを獲得し、ビジネス面での活用を目指している。昨年3月に試験機1号機が打ち上げられたが、第2段エンジンに着火できず失敗に終わった。JAXAなどは総力を挙げて原因調査と対策を進め、今回の成功を果たした。

 H2Aの運用が終わりを迎えつつある中、自立性の維持にめどが立った意義は大きい。また、失敗からわずか1年で再挑戦にこぎつけ、成功を収めたスピード感も評価すべきだろう。

定常的な運用へ

 だが、H3そのものの挑戦はむしろ始まったばかりだ。特にビジネス面での課題は多い。米国ではイーロン・マスク氏率いるスペースXが、H3と同性能のロケットを、低コストかつ毎週約1機という高頻度での打ち上げに成功し続けている。スペースXはロケットの機体を飛行機のように再使用できるようにすることで、低コスト化を実現しており、米国の他社も再使用を取り入れつつある。

 一方、H3は再使用できず、打ち上げ頻度も年6機程度の見通しだ。また、H3の開発が始まった2014年から、衛星の市場は大きく変化しており、多種多様な衛星に対応できる柔軟性が求められている。さらに、ロケット発射場や試験設備などインフラの老朽化はかねてよりの課題だったが、H3の開発でも抜本的な対策が打たれていない。

 加えてH3はまだ試験機であり、今後もたゆまぬ改善、改良が必要になる。特に新開発の第1段エンジンは暫定的な仕様で造られており、3Dプリンターなどを活用したフルスペックのエンジンはまだ開発半ばだ。H3の開発遅延によって生じた宇宙計画全体の遅れを取り戻す必要もある。

 円安により、価格面では他国のロケットと差が小さくなっている。これを追い風に、まずは今後の開発を着実に進め、一日も早く定常的な運用段階に入ること、そして改善、改良により、ロケットの機体やインフラを含めたシステムとしての完成度を高め、他国のロケットに太刀打ちできる信頼性と柔軟性を持たせることも求められる。

 開発の遅れや失敗から得られたさまざまな教訓、見えてきた課題を奇貨として最大限に生かし、H3をより良く進化させていくことが必要だ。

(鳥嶋真也・宇宙開発評論家)


週刊エコノミスト2024年3月5日号掲載

FOCUS H3打ち上げ成功 宇宙輸送維持にめども ビジネス面の課題山積=鳥嶋真也

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