「ミスター政治改革」と宏池会 3000万円の責任取らぬ首相 野口武則
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「政治とカネ」の問題が自民党をこれほど大きく揺るがすのは、三十数年ぶりのことだ。
リクルート事件で1989年に竹下登首相が退陣した際、伊東正義総務会長は後継に推されながら拒否した。大平正芳政権(78~80年)で官房長官を務め、清廉、愚直で知られた宏池会(現岸田派、当時は宮沢派)のベテランである。
首相の椅子を蹴り
「本の表紙だけ替えても中身が変わらなければダメだ」というのが理由だった。党の金権体質が変わらぬまま、首相の「顔」だけすげ替えて逆風をやり過ごそうという執行部の思惑を見透かした。
首相の椅子を蹴って就いた役職は党政治改革本部長。「ミスター政治改革」と呼ばれた。
カネのかからない政治を目指し、衆院小選挙区制導入や政治資金改革などに向けて尽力した。91年の海部俊樹政権で政治改革関連3法が廃案になった際、抗議して本部長を辞任したのは、改革に対する本気度の表れだった。
自民党が下野した93年衆院選に立候補せず、政界引退。94年1月に非自民の細川護熙政権で政治改革関連法が成立したのを見届け、5月に80歳で死去した。
泉下の伊東も嘆いていることだろう。池田勇人元首相が57年に創設し、派閥として最も歴史が古い宏池会が解散するからではない。
宏池会の元会計責任者として政治資金規正法違反の虚偽記載で有罪が確定した佐々木和男元事務局長は若い頃、伊東の秘書を務めた。同郷の福島・会津出身だった伊東に勧められ、2代目の前尾繁三郎会長時代(65~71年)に派閥事務局に転じた。温厚で飾らない人柄で知られ、立件は永田町関係者を驚かせた。
政治資金収支報告書の不記載額は2018年からの3年間で3059万円に上る。所属議員が販売した派閥パーティー券の収入を銀行口座に入金した際、どの議員が売ったか分からない分を記載していなかったという。
今回の事件で立件されたのは安倍、二階、岸田の3派閥で、長年にわたり組織的な裏金作りをしていた安倍派が関与した議員数と金額で突出する。
宏池会9代目会長だった岸田文雄首相は、かたくなに「裏金」という表現を避け、「自民党の政策集団の政治資金の不記載の問題」との言葉を使う。国会で野党議員から理由を聞かれると「文脈、人によって、裏金の意味、内容が異なり得る」と答弁する。安倍派と異なり、岸田派はあくまでも「不記載」に過ぎず、ひとくくりにされるのは心外だとの意識があるからだろう。
首相の説明は「転記ミスなど事務的ミスが積み重なった」「不確かな会計知識に基づいた」というものだ。不記載分は銀行口座に手付かずで残っており、「意図的に隠したという指摘は当たらない」と強調する。
だ…
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週刊エコノミスト
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