「無主流派」でも政権に執着 森氏と決別する覚悟はあるか 人羅格
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通常国会は「政治とカネ」を巡る問題がいっこうに収束しない中で、政府与党がひたすら逆風をかわし、新年度予算が成立するのを待つような状況になっている。
岸田文雄首相の政権維持への執念は相変わらずだ。ただし、それと裏腹に、秋の総裁選再選への展望は全く開けていないアンバランスが政界を覆っている。
再選はますます困難に
2月中旬、東京・永田町の全国町村会館にある「宏池会」(自民党岸田派)事務所を訪ねた。首相による派閥解散宣言を受けて、閉鎖の準備が進んでいた。創始者・池田勇人や大平正芳ら歴代会長の肖像はまだ掲げられていた。
筆者は1990年代、宏池会担当記者だったことがある。
当時の事務所は東京・赤坂の日本自転車会館にあり、米国大使館の向かい側だった。例会日でなくても議員がひんぱんに出入りし、店屋物がふんだんに注文されていた。自転車会館が解体され町村会館に移転したが、いまも「宏池会イコール自転車会館」のイメージを抱く政治家や記者は多かろう。
首相がその「宏池会」解散に踏み切ったのは、政治資金パーティーに伴う裏金問題の深刻さに照らせば、適切だった。派閥力学を最大限に利用して政権に就いた政治家だけに正直、驚いた。
では、なぜそうした判断に踏み切ったのか。岸田派にも裏金問題が飛び火し、自身の責任の代わりに派閥を切った印象が濃い。
加えて読み取れるのは、総裁選前に態勢を立て直し、衆院を解散する道をなお必死に探っていることだ。逆に言うと解散抜きで秋の自民党総裁選を乗り切ることは、あきらめたフシがある。
岸田派解散は、同調を迫られた安倍派、二階派のみならず、これまで主流派として首相を支えてきた麻生派と茂木派に打撃を与えた。
茂木派は小渕優子選対委員長の離脱で分裂含みとなり、存続を決定した麻生派も麻生太郎副総裁の求心力低下は避けられない。麻生氏や茂木敏充幹事長にしてみれば、首相に背後から斬りつけられたような感覚ではないか。
かくて自民党は、首相を支える勢力もない代わりに倒そうとする勢力もない「無主流派状態」となった。仮に秋の総裁選にこのまま突入した場合、首相を支える安定勢力はない。派閥の後ろ盾なしに首相が勝ち抜く可能性は、現状では限りなく低い。
無派閥議員が多数派となった党内では「国会議員の推薦20人確保」という総裁選出馬のハードルも以前よりクリアしやすくなる。女性候補や人気度の高い政治家がこぞって手をあげれば、おそらく首相の出る幕はないだろう。
そんな首相にとって、政権を継続する唯一の打開策は、総裁選前に衆院を解散して総選挙を乗り切り、総裁選で無投票で再選される道筋をつけてしまうことだ…
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週刊エコノミスト
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