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国際・政治 ウクライナ

インタビュー「ウクライナは年内に政権交代も」ボグダン・パルホメンコさん(在キーウ活動家)

 ウクライナ戦争は2月24日で、3年目に入った。ウクライナ各地で民間人や軍施設への物資支援を行う、ウクライナ軍の内情にも詳しい活動家で、この度、来日したボグダン・パルホメンコ氏に現地での戦況や政権への見方を聞いた。(聞き手=桑子かつ代・ジャーナリスト/稲留正英・編集部)

ザルジニー前総司令官に高い支持

── 戦争の長期化をどうみていますか。

■戦争の対価があまりにも高すぎます。ウクライナ軍の兵士の数はすでに150万人くらいになっています。兵士として招集されたものの、国の財政悪化で装備品や軍服が支給されず、給料が未払いの兵士もいます。領土奪還への考えは理解できますが、ウクライナとして不可能な戦いをしていると言わざるを得ません。ゼレンスキー大統領への評価もここ1年くらいで大きく変わりました。ゼレンスキー大統領では停戦の話が出ない、ロシアと停戦交渉をするような気配が全くみえません。

── ウクライナ国内で政権への不満や批判が出ていると。

■今回の戦争が始まった頃から、ウクライナには「二つの敵」があると思っています。一つはロシアという敵、もう一つはウクライナの汚職、腐敗という「内なる敵」で、これはソ連時代から続くものです。ウクライナはロシアという外敵には耐え抜き、パーフェクトに戦っています。しかし、二つ目はウクライナ内部の問題です。ウクライナ軍への支援資金が不正に使用され、例えば卵が市場価格の3倍で購入されたり、ゼレンスキー大統領が任命した前国防大臣の汚職問題などがあります。

 ゼレンスキー大統領本人も、戦争が始まってから国民そっちのけで海外に向けた情報発信ばかりで、国内と海外の評価が全然違います。国内でデモも起こっています。ゼレンスキー大統領の「国民の僕(しもべ)」党の支持率は10%以下です。今年は新政権への動きがあり得ると思います。

反転攻勢の実情

── 23年6月からの反転攻勢は失敗と言われています。

■ウクライナ国内での有力な説としては、反転攻勢をあのまま進めたら非常に多くの犠牲者が出る恐れがあったため、当時のヴァレリー・ザルジニー軍総司令官が反転攻勢に見せかけながら、人員を温存していた、という見方です。軍事支援は届くと言われて戦い続けていたら、兵員を失い、結局、ロシアに降参するしかなかった。アメリカはそれを意図し支援を出さずに反転攻勢させたが、ザルジニー氏はそれを分かっていた、という説です。

ザルジニー軍総司令官(右)に英雄勲章を授与するゼレンスキー大統領(2024年2月、共同通信)
ザルジニー軍総司令官(右)に英雄勲章を授与するゼレンスキー大統領(2024年2月、共同通信)

── ゼレンスキー大統領はザルジニー氏を更迭しました。彼に不満だったのでは。

■そうです。国民からみると、ザルジニー氏の支持率は9割近くで、ゼレンスキー大統領の6割を上回っており、それが気に入らなかったのです。汚職もなく軍からも評価されるザルジニー氏と比べてゼレンスキー大統領はすべてを自分の手柄のようにみせています。このままいったら、民主主義と国民を守るという大義名分を持った独裁者になる可能性があります。国民がこのまま容認したら最終的にはプーチン政権のようになるので、どこかで政権交代という方向になると思います。

── 政権交代はいつごろに。

■今年の10月あたり、ウクライナに何かが起きるかもしれません。ウクライナはだいたい10年周期で革命が起こり、その時期は9~10月が多くみられます。農耕民族なので、種まきと収穫に影響がない時期なんですね。しかし、今の戦時下では地雷があちこちに設置され、戦争前のような種まきができる農家が少なくなっているため、もし政変が起こるとしたら従来よりも早い時期もあるかもしれません。今年中には何か起こると思います。

── その場合は、誰が新大統領になると。

■今、ウクライナで濃厚な説は、前回の大統領選でゼレンスキー大統領に負けたペトロ・ポロシェンコ氏(2014~19年の大統領)がザルジニー氏とタッグを組んで、政治経験のないザルジニー氏を後押しするというものです。

── ポロシェンコ氏は「チョコレート王」で、国内有数の富豪ですね。

■富豪でオリガルヒですが、大統領として14年のドンバス紛争から兵士を支援してきたため、兵士からの支持は厚いと思います。

ロシアと接近する選択肢も

── プーチン大統領が米メディアとのインタビューで停戦交渉への関心を示しました。

■ロシアは今回の戦争で、ウクライナをもう侵攻できない、侵略できないと分かったはずです。だから、今、停戦交渉をするべきなんですよ。プーチン大統領はあの発言を通して、ロシアの人たちへ、自分の後に大統領になり得る人に対して、停戦の準備を呼びかけたと思います。

── 停戦が実現したらウクライナはロシア人とどう付き合うのでしょうか。

■ロシアとの関係はしばらく難しい。ロシアを許容できるウクライナ国民はいません。でも、最終的にはある程度、変わる必要があるとも考えます。ウクライナの勝利のパターンは、ロシアと仲良くすることかもしれません。そうすると欧米は焦ります。ウクライナは絶対ロシアとはくっつかないと思っていますから。もし、ウクライナが欧米をてんびんにかけようと思ったら、ロシアと近くなることです。

── ロシアから無人機やミサイルの攻撃が続く状況では、無理では。

■ウクライナが全てを完全にひっくり返そうと思ったら、それしかないんですよ。EU(欧州連合)に対しては、ウクライナを支援しないんだったら、ロシアの兵隊をポーランドの国境まで行かせますと。ロシアに対しては、ちゃんと賠償金を払わないんだったら、ロシアとの国境にNATO(北大西洋条約機構)の核ミサイルを置かせますと。

── ザルジニー氏ならロシアとの関係に変化が出そうですか。

■やると思います。なぜなら、彼はロシアのことを理解している部分もあるからです。だから、ロシアとの距離を近くするというのは、もしかすると一つのポイントになってくる可能性があります。私は別にロシアが好きになったわけじゃないですが。

(ボグダン・パルホメンコ 在キーウ活動家)


 ■人物略歴

Bogdan Parkhomenko

 1986年ウクライナのドネプロ生まれ。1990年に母親と来日、神戸に移り住む。中学を卒業後、ウクライナに戻り、大学院卒業。学生時代から日本メディアの通訳・コーディネーターを担当し、大学卒業後は大手商社などに勤務後、現在は日本や他国の製品を扱う貿易会社を経営する一方で、ユーチューブなどで日本向けに積極的にウクライナの情報発信を行っている。ウクライナ軍では少尉に相当する階級を持つ。


週刊エコノミスト2024年3月12日号掲載

ウクライナ インタビュー ボグダン・パルホメンコ ウクライナは年内に政権交代も ザルジニー前総司令官に高い支持

インタビュー

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