教養・歴史書評

ローマ「帝国」の芽生えをイベリア半島支配に求めた書 本村凌二

 なぜローマ人だけがあの巨大な帝国を築くことができたのか、誰もが興味をそそられる問題である。この大問題をめぐって、宮嵜(みやざき)麻子『ローマ帝国の誕生』(講談社現代新書、1320円)は、ローマ帝国の属州支配の実態に注目して解明する。

 カルタゴと争った最初のポエニ戦争に勝利して、紀元前3世紀半ば、ローマはシチリアを支配下においた。だが後に属州を意味する「プロウィンキア」は、当初は命令権を伴う任務の意であったが、この任務を担う執政官も法務官もいなかった。数年後に制圧したコルシカ・サルディニアでも事情は変わらず、ローマは都市国家として周辺を支配するという基本のままでしかなかった。

 ところが、ハンニバルを斥(しりぞ)けた第2次ポエニ戦争の後、前2世紀初頭にイベリア半島に二つの属州が設置されてから、属州統治機構がしだいに築き上げられるようになったらしい。そもそもイベリア半島は地形上から諸地域に分断されており、さまざまな先住民がいたことは忘れるべきではない。地域ごとの生活圏があり、一つの異世界としてのイベリア半島があったわけではない。そこには多種多様な小世界があり、それらと向き合わざるをえなかったのだ。

 イベリア人の先住民は反感をいだき、なかには蜂起をくりかえす勢力もいた。特に前197年以降の戦いは激しいものだった。ローマ軍は潰走せざるをえず、将軍が戦死してしまった。翌年には、新たな軍団と将…

残り360文字(全文960文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事