家族や血縁の厄介さを描きつつ複雑なプロレス世界を刺し貫く 芝山幹郎
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映画 アイアンクロー
プロレスラーには短命の選手が多い。ブルーザー・ブロディは42歳で刺殺された。橋本真也は40歳で脳幹出血を起こした。クリス・ベノワは40歳のときに一家心中した。
どのケースにも胸が痛むが、プロレス史上、最も頻繁に語り継がれてきたのは「フォン・エリック家の呪い」ではないか。
父フリッツ・フォン・エリックは、必殺技「鉄の爪(アイアンクロー)」で知られた。ジャイアント馬場やジャンボ鶴田の「宿敵」として日本のリングでも活躍したから、覚えているファンは多いはずだ。広げた右手を、鷲(わし)の爪のように相手のこめかみに食い込ませる決め技。相手が両足をばたつかせて苦悶する姿は妙にリアルだった。1929年生まれのフリッツは、97年に病死した。
フリッツには6人の息子がいた。「アイアンクロー」に出てくるのは4人だ。物語に関わらない長男は6歳で事故死し、6男は21歳で拳銃自殺した。
これだけでも十分に不吉な匂いが漂うが、映画に出てくる4人も、それに匹敵する困難と苦痛と悲劇に直面する。
映画を見ていない方のために詳述は避けるが、4人のうち現在も存命なのは、57年生まれのケヴィン(ザック・エフロン)ただひとりだ。58年生まれのデヴィッド(ハリス・ディキンソン)は84年に、64年生まれのマイク(スタンリー・シモンズ)は87年に、60年生まれのケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)は93年に世を去っている。いずれも父が死ぬ前だ。
死因はそれぞれ異なるが、一貫して描かれるのは、父フリッツ(ホルト・マッキャラニー)の異様な圧力だ。「強くなれ、タフになれ」という言葉を呪文のように繰り返す彼は、…
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週刊エコノミスト
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