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2024年ベア3%超の見通し 実質賃金改善で個人消費は回復へ 宮前耕也
3月15日に連合が公表した2024年春闘の第1回回答集計は、かなり強い内容となった。基本給を底上げするベースアップ(ベア)率は3.70%に達し、23年の2.12%を大きく上回った。
第1回集計では賃上げ余力のある企業の回答が先に集まった可能性があり、24年7月の最終集計段階では下方修正される可能性が高そうだ。ただ、慎重にみても、24年のベア率は3%を超えそうだ。
23年夏以降、正社員の賃金動向を示すフルタイム基本給は前年比2%付近で安定している。24年春から夏にかけて大幅ベアが反映されることで、フルタイム基本給の伸びは加速しよう。
なお、連合調査の対象とならない、すなわち組合に属さない労働者の賃上げ加速ペースは相対的に緩やかとみられる。マクロ全体では、フルタイム基本給は3%へ向けて徐々に切り上がることになりそうだ。
物価高騰が重しに
こうした賃金の改善を受け、今後は個人消費の回復が期待できそうだ。
足元の個人消費は、名目ベースでみれば好調なようにみえる。国内総生産(GDP)統計の個人消費は、23年7~9月期に年率換算の季節調整値で266.5兆円と過去最大に達した。10~12月期は266.2兆円へ減少したものの小幅にとどまり、依然高水準だ。
だが、名目ベースの個人消費拡大は、このところの物価高騰の影響が大きい。物価変動の影響を調整した実質ベースでみれば、個人消費は23年4~6月期から10~12月期まで3期連続で減少、コロナ禍直前の水準並みにとどまっている。23年5月にコロナの感染症法上の分類が「5類」へ移行したため、個人消費は回復が続くと期待していたが、むしろ弱くなっている。
個人消費の内訳をみると、サービス消費は回復傾向にある。コロナ「5類」移行による経済活動の正常化、具体的には観光、帰省やレジャーの需要回復、出社率上昇などの恩恵が表れている。だが、非耐久財消費が落ち込み、全体の足を引っ張った。特に食品関連の弱さが目立つ。経済活動正常化で巣ごもり需要が縮小した影響もあるが、ウクライナ危機後の急激な価格上昇により、節約のため購入量を減らす動きが生じたとみられる。すなわち、経済活動正常化の好影響よりも、物価高騰の悪影響が勝り、個人消費は抑制されたといえる。
一方、24年の消費者物価は前年に比べれば伸びが鈍化する可能性が高い。輸入コスト転嫁の勢いが落ちるためだ。生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、23年に前年比3.1%と大きく上昇したが、24年は2%台の伸びに抑えられそうだ。
実質賃金はベアが反映される24年春から夏にかけて、前年比プラスへ転じる可能性が高そうだ。これまで節約で低迷が続いた非耐久財消費が持ち直そう。
また、同年6月ごろには3.5兆円規模の所得税・住民税の減税が行われる。減税額のうち7割程度は貯蓄に回るものの、3割程度は消費に回ると想定できる。一時的にせよ、個人消費を押し上げよう。
(宮前耕也・SMBC日興証券日本担当シニアエコノミスト)
週刊エコノミスト2024年4月2日号掲載
2024年春闘 ベースアップ率3%超の見通し 実質賃金改善で個人消費は回復へ 宮前耕也