実体経済と株高のズレに潜むものは何? 編集部
「生産や消費が伸びず、失速の予兆が見られるリアルエコノミーに対して、急テンポで上昇する株価との間には、マグマのようなものがたまっている。いつそれがはじけるかはわからない」
スフィンクス・インベストメント・リサーチの藻谷俊介代表取締役は、1980〜90年代のバブル期を超え、一時日経平均株価が4万円台に乗せる急激な株高に警鐘を鳴らす。
ミスリードする統計
日経平均は2月22日、1989年12月末につけた当時の最高値3万8915円を上回り、約34年ぶりに史上最高値を更新(図1)。それから1週間余りの3月4日、初めて4万円を突破した。
株高は世界的な人工知能(AI)・半導体ブームや日本企業の業績回復、円安が追い風と解説される。しかし、生活者に好景気の高揚感はない。業績がいいのはグローバルに事業を展開する一部大企業で、大半の雇用の受け皿となっている中小・零細企業は、人手不足や賃上げ強制ムードに伴う無理な賃上げで疲弊。インフレが個人消費の足かせになっている。
リアルエコノミーの好調さを示す指標として、法人企業統計の設備投資が引き合いに出されるが、藻谷氏に言わせれば、「ミスリードしている」。
財務省が3月4日に発表した2023年10〜12月期の法人企業統計によると、設備投資は前年同期比16.4%増加。製造業に限れば、20.6%増と大幅な伸びを示す。この伸びには半導体や自動車などの生産設備増強がかなり効いているという。
「1年前の同じ四半期と比べてもあまり意味がない。足元のトレンドを捉えるには、季節調整をかけた上で直近の四半期だけの動きを、月次統計なら直近3カ月程度をならしてみる必要がある」と藻谷氏は指摘する。
企業収益も直近四半期の数値では、減速あるいは急失速している例もある。たとえば、売り上げは1.5%増と前の23年7〜9月に比べてほぼ横ばいだ。経常利益に至っては同26.1%減と急ブレーキがかかっている(図2)。
株高の背景には外国人投資家の大量購入があるとされる。だが、大手運用会社の日本株担当者は「外国人投資家向けのセールスでは、GDPはじめ日本のマクロ経済を説明することはまずない。半導体や関連の電子部品・部材メーカーといった国際競争力のある企業をアピールするのは、今回の上げ相場だけでなく、以前から変わらない」と語る。
バフェット指数は過熱
要するに、日本のリアルな景気動向、成長率とは無関係に、グローバルで勝てる企業を外国人投資家は物色しているということだ。加えて、「株主還元に向けたガバナンスを強化したり、規制緩和に積極的な国・地域に外国人投資家は注目する」(同)。日本が外国人投資家を振り向かせる好要件がそろっているということだ。
オックスフォード・エコノミクスの山口範大シニア・エコノミストは「日本“企業”と日本“経済”は別物と考えたほうがいい」と指摘する。
「日本企業の海外進出目的は、当初の生産拠点の移管から現地市場の獲得へと変化している。国際協力銀行の調査によると、00年代初頭に20%台だった製造業の海外売上高比率は、足元で40%近い。足元で世界的に急回復している半導体関連製品の需要や堅調な北米の自動車販売、さらに円安は日本企業の業績にはプラスに働いているが、それが国内のマクロ的な雇用・賃金増に波及せず、マイナスの実質賃金に苦しむ消費者との乖離(かいり)が広がっている」
実感の伴わないバブル超えは続くのか、バブルとして終わるのか──。米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が相場の過熱感を測る尺度がある。名目GDPに対する株式時価総額の比率(時価総額÷名目GDP)、バフェット指数だ。89年末のバフェット指数は1.42倍で、23年末は1.46倍と約34年ぶりにバブル期を超えた。バフェット氏は1倍を超えると株価は割高と見なすことから、バブル期以来の過熱状態にあるといえる。
(編集部)
週刊エコノミスト2024年4月2日号掲載
日本の実力 実体経済と乖離する株高にたまるマグマ=編集部