「もしトラ」でポスト岸田揺さぶる 官邸に「チーム安倍」再結集のくせ球 伊藤智永
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トランプ氏に一番強い政治家は誰か──。米大統領選でトランプ前大統領が共和党候補になることが確実になった。世界中が「もしトラ」(もしトランプ氏が大統領に復帰したら)を想定して浮足立っている。日本政界も例外ではない。支持率低迷から抜け出せない岸田文雄首相の去就をにらんだ「ポスト岸田」政局でも、「もしトラ」を使った駆け引きが活発になっている。
束ね役に意欲?甘利氏
「首相官邸に“チーム安倍”を再編成するしかない」。自民党の甘利明前幹事長は2月ごろから、マスコミで盛んにそう吹聴しだした。「トランプ氏の手法は全部がディール(取引)だ。しかも多少は遠慮がちだった1期目に比べ、2期目は(3選は禁止されているので)、思う存分自分のやり方でやるだろう。G7(主要7カ国)で一番うまく渡り合ったのは安倍晋三元首相だったが、もういない。ならば経験知を最大限生かすため、当時の政権スタッフを官邸に集めて対応するに如(し)くはない」というわけだ。
甘利氏は第2次・3次安倍内閣の経済再生相を3年余り務め、官邸主導体制の要だった。トランプ政権(2017~20年)発足前に口利き疑惑で政権を離れたが、「チーム安倍」の面々には顔が利く。束ね役には自分が打ってつけという自薦の響きが聞き取れる。その時の政権が岸田首相の続投か「ポスト岸田」の誰かであるかにかかわらず、トランプ再登板をきっかけに、21年衆院選の小選挙区落選で幹事長を35日間で辞めて以来の政権中枢返り咲きを期しているに違いない。
「もしトラ」の勢いにあやかろうという意気込みは、茂木敏充幹事長の方が上かもしれない。茂木氏の幹事長就任は甘利氏辞任による棚ぼただったが、実は甘利氏の2代後の経済再生相でもあった。在任中、トランプ政権との日米貿易交渉を担当。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表を相手に「自由・公正・相互貿易取引協議」(FFR)をこなした。あのトランプ氏を「茂木はタフネゴシエーター(手ごわい交渉相手)だ」と感心させたという逸話は、茂木氏の自慢の一つだ。
茂木氏は最近、岸田氏との反目が目立つ。岸田氏が相談なく派閥解散の流れを作り出し、解散を拒んだ茂木派からも、その余波で脱会者が相次いでいるからだ。本来なら幹事長として責任を負うべき政治資金パーティーの裏金問題や4月の衆院3補選への対応も他人任せで、とても岸田政権を一心同体で支えているとは言い難い。岸田氏退陣もあり得ると踏んで、初の総裁選出馬をもくろんでいるのだろうと見られている。
総裁選は9月。11月の米大統領選の前だが、「もしトラ」が総裁選の争点に浮上したらどうなるか。4年8カ月に及んだ岸…
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週刊エコノミスト
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