自公両党の覆い隠せないきしみ 深刻化する岸田政権の機能不全 松尾良
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自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件は、衆参両院で安倍派幹部たちが問いただされた政治倫理審査会(政倫審)を経てなお、全容解明は遠く、国民の強い批判が続いている。麻生、茂木両派を除く派閥の解散決定は、党内の権力構造を液状化させ、「誰が何をどこで決めるのか」が不確かになった。頼れる相手が少なく孤立する岸田文雄首相は場当たり的な対応を繰り返し、それがまた批判を浴びるという悪循環に陥っているようだ。
「解散はすべきでない」
連立を組む公明党との関係にもきしみが目立っている。
「(衆院解散・総選挙は)秋が一番可能性が高いのではないか」。公明の石井啓一幹事長が3月10日のBS番組で、与野党が注目する解散時期に言及した。9月の自民党総裁選についても「そこで選ばれた総裁は、非常に支持率が高くなる」と語った。6月の通常国会会期末までの衆院解散も否定はしなかったが、岸田氏から政権の顔をすげ替えて「ご祝儀相場」の支持率を得て解散したい、と聞こえた。石井氏は後日「あまりに深読みしすぎ」とそうした見方を打ち消したが、自民側に「あれが公明の本音だ」との声も漏れた。
岸田首相は4月の衆院3補選に合わせた衆院解散を「全く考えていない」と国会答弁した。公明の山口那津男代表は「明確に否定されたので、その通り受け止めたい」と記者会見で念を押し、「(政治とカネを巡る)信頼回復のトレンドを作り出さない限り、解散はすべきでない」と強くけん制した。地元有権者の猛反発に悩む自民議員たちも含めて「しばらく解散は勘弁してほしい」というのが与党内の大勢だろう。
これに限らず、公明はこのところ岸田政権に手厳しい。あくまで自民党の問題である裏金事件の巻き添えを食ってはたまらない、という警戒心が、一歩も二歩も引いた姿勢につながっている。衆参の政倫審で「知らない」「分からない」を連発した安倍派幹部に対し、公明幹部からは「無責任のそしりを免れない」「説明責任が尽くされていない」などと強い言葉による苦言が飛んだ。
そもそも、近年の自民と公明は日常的なパイプが細り、人間関係が希薄化しているとの指摘がある。第2次安倍政権において、山口氏と当時の安倍晋三首相は「反りが合わない間柄」とみなされていたが、安倍氏はここぞという時は山口氏に根回しの電話を入れるなど、一定の気遣いを欠かさなかった。かつて自民は大島理森元衆院議長ら、公明は太田昭宏元代表、漆原良夫元国対委員長らが両党の太いパイプを支えた。
しかし今、岸田首相や自民・茂木敏充幹事長らと公明幹部の間で、密接に連絡を取り合う空気は乏しい。公明や支持母体・創価学会と蜜月を誇った菅義偉前首相、二階俊博元幹事長は非主流派として様子見を続ける。両執行部の間を取り持とうと懸命なのは、自民の森山裕総務会長、公明の高木陽介政調会長くらいかもしれない。
目詰まりする意思疎通
自公のぎくしゃくぶりを示…
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