ささやかれる「7月21日総選挙」 行方を占う衆院3補選 及川正也
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「7月9日公示・7月21日投開票」。こんな衆院選日程が国会周辺でささやかれ始めている。
「解散の日から40日以内に総選挙を行う」との憲法の規定から逆算すると、イタリアで主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開催される6月13〜15日前後から通常国会会期末の6月23日までの間の衆院解散が想定される。いわゆる「会期末解散」だ。公示直前の7月7日には東京都知事選があり、投開票後の7月26日からパリ・オリンピックが始まる。ビッグイベントの合間を縫う日程だ。
いくつものハードル
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に関わった議員を処分してけじめをつけ、外交舞台で存在感を示したうえで勝負に出る──。岸田文雄首相の胸中を推し量れば、そんなところだろう。周辺からは「勝利して政局を安定させ、9月の自民党総裁選で再選を果たす」との声も漏れ聞こえるが、果たして、そううまく運ぶか。
支持率低迷が続く中、「追い込まれ解散のシナリオ」といぶかる声もある。それでも解散に打って出ようとすれば、いくつものハードルを乗り越えなければならない。
まず、4月28日投開票の衆院3補選だ。東京15区と長崎3区は候補擁立を見送る方向で、唯一公認候補を抱える保守の「牙城」・島根1区が最大の焦点となる。
自民党の細田博之前衆院議長死去に伴う補選だが、後継候補で元財務官僚の錦織功政氏に対し、立憲民主党は前職の亀井亜紀子氏を対抗馬に立て、野党系候補を一本化した。裏金事件の中心地となった安倍派の会長を務めていたのが細田氏だ。逆風を受け厳しい戦いを強いられているが、議席を守れば首の皮一枚つながる。
勝利すれば風向きは変わる、と首相周辺は読む。島根では共産党が候補擁立を見送っての野党一本化だった。野党内には好機を逃したというムードが高まるだろう。内閣支持率が回復しなかったとしても、「野党恐れるに足らず」と首相が判断すれば、総裁再選を目指すうえで衆院解散に踏み切る可能性はある。それが冒頭の日程だ。
結果が逆なら暗転する。「3戦全敗」の責任論から自民党内に「岸田降ろし」の声が高まりかねない。与党の混乱に乗じて野党は勢い付くに違いない。島根の成功体験から野党統一候補の動きを加速させるだろう。3月25日に立憲民主党の泉健太、国民民主党の玉木雄一郎両代表が会談。衆院選に向けた連携の布石との観測を生んだ。
「弱り目にたたり目」の首相だが、それでも「7月総選挙」が消えるわけではない。焦点は、実際に「岸田降ろし」が起こるかどうかだ。
最大派閥として君臨した安倍派は裏金事件で壊滅状態。実力者の二階俊博元幹事長も裏金事件を受けて次期衆院選への不出馬を表明した。派閥解消を巡って首相と対立した麻生太郎副総裁は首相を追い落とすまでの有力候補を擁していない。選挙を担う茂木敏充幹事長も「3戦全敗」となれば、その責任は免れない。
「岸田首相を甘く見ては駄目…
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週刊エコノミスト
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