「引責解散」うかがう首相 退陣、上川氏擁立も選択肢か 人羅格
有料記事
自民党の派閥秩序が崩れる中、岸田文雄首相が相対的に1強状態という党内力学が働いている。ただし、裏金問題を巡る処分は世論の失望と、党内の反発を招いた。このままでは、秋の総裁選の乗り切りは絶望的な状況だ。
起死回生策として前代未聞の衆院「引責解散」に踏み切るか、それとも退陣して次期総裁選びへの影響力行使を目指すのか。4月28日投開票の衆院補選の結果が政権の行方を左右しそうだ。
打算が生んだ「蜜月」
瀬戸際の2人が「グローバルな連携」をアピールした日米首脳会談だった。国内で2割程度の低支持率にあえぐ岸田首相だが、国賓待遇でバイデン大統領に専用車「ビースト」への同乗まで認められた。不自然なほど満面の笑みをたたえたツーショットを「X」(ツイッター)に投稿してみせた。
トランプ氏との対決の行方が予断を許さぬバイデン氏にとって、日本が防衛力強化を伝えてくるのは好都合だ。仮にトランプ氏が返り咲けば、バイデン氏への肩入れは日本外交に裏目に出かねない。それでも、先のことを心配する余裕などない。双方の置かれた状況が「蜜月」の追い風となった。
それにしても、基準が不明確で、不透明な裏金処分問題の結論だった。恣意(しい)的としか評せない要素がちりばめられていた。
安倍派では座長だった塩谷立元文科相、参院安倍派会長だった世耕弘成・前参院幹事長が離党勧告で狙い打ちにされた。塩谷氏の再審査請求は「最後の抵抗」だった。
対照的に、裏金キックバックが現職議員で最多だった二階俊博元幹事長は次期衆院選への不出馬を理由に不問となり、3番目に多い約2730万円の萩生田光一前政調会長は1年間の党役職停止と軽い処分で済んだ。何よりも首相に一切、処分がなかった。
裏金問題解明に欠かせぬ森喜朗元首相の国会への招致実現にも首相は動かなかった。還流システムがどうしてでき、派閥会長だった安倍晋三元首相(故人)による見直しがなぜ覆ったか。結局、何も解明されていない。
総裁選前に衆院を解散して総選挙を切り抜け、総裁続投を目指すというシナリオを首相は放棄したわけではなかろう。処分決定にあたり自身の政治責任について、「政治改革の取り組みを見ていただき、最終的には国民、党員に判断してもらう」と語った。
訪米や6月の所得減税を成果とし、政治資金不正の再発防止策を決着させて民意を仰ぐというのが「6月解散説」だ。解散で責任を取るというのは、おかしな理屈だ。だが、発言を境に解散を巡る臆測が急速に広がった。
とはいえ、民意を問うハラを首相が固めているのであれば、もっと世論を意識すべきだった。
国民の目から見て、処分はけじめにはほど遠い。処分後のNHK世論調査で内閣支持率は23%と発足後最低に並んだ。これに対し、首相が処分対象外であることに「妥当ではない」は61%に達した。
権力維持のためには自派の岸田派すら非情に解散した首相が、なぜ中…
残り929文字(全文2129文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める