皇位継承巡る議論本格化へ 「合意」への鍵握る野田元首相 野口武則
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皇位継承を巡る議論がようやく国会で始まる。小泉純一郎政権が2005年に女性・女系天皇容認の有識者会議報告書をまとめて以来、自民党保守派の反発で一歩も進んでこなかった。将来を担う若い皇族に残された時間は少なく、これ以上政治の不作為は許されない。
議論の基となるのが、政府の有識者会議が21年末にまとめた報告書だ。
皇族数を維持する方策として①女性皇族が結婚後も皇室で身分を保つ、②旧宮家出身の男系男子を養子縁組で皇族に復帰させる──の2案を軸に挙げた。今の皇室典範では、結婚した女性皇族は皇籍を離れ、皇族が養子を取ることはできない。現状のままでは、天皇陛下の長女愛子さま(22)ら未婚の女性皇族は皇室を離れ、秋篠宮さまの長男悠仁さま(17)が将来即位する際、悠仁さまの家族の他に皇族が誰もいなくなる可能性すらあり得る。
①の夫と子について、有識者会議が行った専門家らへの意見聴取では、皇族の身分を与えるかどうか賛否両論あった。ところが報告書では、将来、父方が天皇の血筋につながらない女系天皇につながる可能性がある、という保守系学者らの意見を採用し、皇族の身分を与えない考えを示した。
自民が報告書を評価するのは、①で将来の女系天皇誕生に歯止めを掛け、保守派が求める②も新たに盛り込まれたからだ。公明、日本維新の会、国民民主の3党も両案を容認する見解を発表した。
上皇さまの退位を実現した特例法の付帯決議では、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について」政府に検討を求めた。だが、報告書は一時的な皇族数確保策にとどまり、要請に応えていない。
「帝室は政治社外のもの」
報告書の要諦は、結びに記された福沢諭吉著『帝室論』の「帝室は政治社外のものなり」との言葉である。皇室を巡る課題が政争の対象になったり、国論を二分してはならないとクギを刺す。要するに、保守派が反発する皇位継承問題に踏み込まないということだ。
福沢は慶応義塾の創設者。福沢研究者の都倉武之・慶応大准教授が意見聴取で紹介し、それが引用された。6人の有識者会議メンバーは、座長の清家篤・元慶応義塾長以下、報告書のライターと目される細谷雄一・慶応大教授、慶応大出身の宮崎緑・千葉商科大教授と、半分を慶応閥が占める。第三者委員会の意見を装うものの、政府による人選や、福沢の言葉を先送りの方便として使う巧みさから見て、結論ありきの感が強い。
皇位継承問題は緊急課題だと訴える慶応出身の皇室研究者は、「清家、細谷、宮崎の三羽がらすに阻まれた」と漏らした。
だが、一部に反対がある限り国のかたちに関する重要問題が先送りされては、皇室は消滅への一途をたどってしまう。合意点を探るべく、どこかの段階で政治決断が必要となる。
今後の焦点は、野党第1党である立憲民主党の対応だ。旧民主党の野田佳彦政権が12年、「女性宮家」創設の論点整理を…
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週刊エコノミスト
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