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経済・企業 EV試乗記

価格559万円のボルボ最新EV「EX30」に試乗――小さくてもデザイン、品質、走行性能はボルボ基準

ボルボEX30。「トールハンマー型」のLEDランプが特徴的だ
ボルボEX30。「トールハンマー型」のLEDランプが特徴的だ

 ボルボの最新電気自動車(EV)である「EX30」に試乗する機会を得た。同社の乗用車の品ぞろえの中では最もサイズが小さく、日本の道路事情にあっているうえ、値段もフル装備で559万円とライバルのドイツ車に比べても値ごろであり、個人的に大いに注目していた。

ドイツ車にはないコンパクトSUVタイプ

 コンパクトSUV(スポーツタイプ多目的車)に分類されるEX30のサイズは、全長4235ミリ×全幅1835ミリ×全高1550ミリ。室内の広さを決めるホイールベースは2650ミリだ。欧州の高級車セグメントでは、アウディのコンパクトSUVである「Q2」(全長4200ミリ×全幅1795ミリ×全高1530ミリ、ホイールベース2595ミリ)が想定ライバルとなる。しかし、Q2はEVを用意していない。つまり、高級な小型EVをセカンドカーとして欲しい都会の高所得層やファーストカーとして欲しい若い世代には、アウディなどのドイツ勢にはない選択肢となる。

EX30の全長は4235㍉とコンパクト
EX30の全長は4235㍉とコンパクト
EX30の後ろ姿。SUVタイプであることが分かる
EX30の後ろ姿。SUVタイプであることが分かる

 駆動方式は後輪のモーターで後輪を駆動する「RR(リアモーター・リアドライブ)」だ。重量物のモーターが漬物石のように後輪を上から押さえるので、モーターの強大なトルクをタイヤに無駄なく伝えるのに有利だ。また、前輪の切れ角を大きくとれるので、街中での取り回しを規定する最小回転半径にもプラスに働く。直径20インチの大径タイヤを履くにもかかわらず、最小回転半径は5.4メートルに抑えられている。

最高出力は272馬力、航続距離は560キロ

 最高出力は200キロワット(272馬力)、最大トルクは343ニュートンメートル。容量69キロワット時のNMC(三元系リチウムイオン)電池を搭載し、満充電時の航続距離は560キロだ。

EX30の運転席と助手席。インストルメントパネルはなく、12.3インチの液晶画面に速度などが表示される
EX30の運転席と助手席。インストルメントパネルはなく、12.3インチの液晶画面に速度などが表示される

 全長は短いながら、場所をとるエンジンがないため、ホイールベースを長くとれる。ボディの4隅にタイヤを配置することができ、外見は、地面をしっかりと掴む「踏ん張り感」がある。ラジエーターの穴がないフロント部は、北欧の神トールが持つとされるハンマーを模したトールハンマー型のLEDランプを両側に内蔵し、近未来的かつスポーティーなイメージだ。

 中に乗り込むと、米テスラの「モデル3」や「モデルY」と同様に、ドライバーの正面に速度などを表示するインストルメントパネルがない。その代わり、ダッシュボード中央部の12.3インチの縦型液晶画面のインフォテインメント(情報と娯楽が一体になったサービス)システムに、速度や運転支援システムの作動状況、ナビゲーション、再生中の音楽などを集中して表示する。このインフォテインメントシステムは、グーグルのものをベースに、ボルボが独自に作り込んでいる。

EX30のトランク部分
EX30のトランク部分

内装はリサイクル素材を活用

 内装は大型家具店IKEAのソファコーナーなどを連想させる典型的な北欧スタイルだ。薄グレー色の布地の電動シートは非常に落ち着いた感じがある。シート素材は30%が羊毛、70%が再生PETなどのリサイクル素材を使う。ダッシュボード下部やドア内張りの一部は亜麻織物の表地を使った素材だ。本革は一切使っていない。一部、硬いプラスチック素材も使われているが、安っぽさを感じさせない作り込みには感心した。

 天井部には大型のガラスルーフがはめ込まれている。そのため、車内は明るい。

EX30の天井には大きなガラスルーフが標準装備される
EX30の天井には大きなガラスルーフが標準装備される

 後席はホイールベースが2650ミリと長いので足元のスペースに期待したが、実際はさほど広くなかった。身長172センチの私が運転席に座った状態で、後席の膝前はこぶし1個半の余裕だ。足元は、つま先が運転席の下にようやく入るくらい。4人で乗車した場合、後席の搭乗者は1時間くらいで休憩がとりたくなるだろう。基本的に、子供が小さい夫婦やセカンドカー向けの需要が想定されている感じだ。スマホ用のUSB端子はあるが、エアコンの吹き出し口は備わっていない。床は中央部が1センチほど張り出ているが、ほぼ平らだった。ただ、ガラスルーフのおかげで、頭上の開放感は確保されている。

EX30の後席
EX30の後席
EX30の後席ひざ前の余裕はこぶし1.5個分
EX30の後席ひざ前の余裕はこぶし1.5個分

静粛性の高い室内

 試乗コースは、港区南青山のEV情報発信拠点「ボルボスタジオ東京」があるビルから、お台場までの往復の48キロ弱だった。

 EX30はハンドル右奥のコラムシフトを下に押すと、スタートする。地下駐車場から国道246号に走り出しての第一印象は「とても静か」というものだ。小さな車はどうしても、吸音材・防音材を使うスペースがないので、静粛性では不利なはずだが、最近乗ったヒョンデ・コナやBYDドルフィンなどに比べても明らかに静かだった。ボルボの広報担当者によると、上位車種XC40のEV版よりも静粛性は高いという。

 ハンドリングは、典型的なRRのもので、ハンドルの操作に合わせて、すっと、クルマが向きを変える。以前、同じRR方式のホンダのEV「ホンダe」に乗ったことがあるが、それと同様の軽快さで、車としての素性の良さを感じた。

EX30のボンネット下には小さな収納スペースがある
EX30のボンネット下には小さな収納スペースがある
EX30のボンネット内の収納スペースは小さい
EX30のボンネット内の収納スペースは小さい

 乗り心地は20インチの大径タイヤを履いているにもかかわらず、地面の凹凸を乗り越えても不快な振動はなかった。サスペンションはドイツ車のように硬めで、段差を「タン、タン」と軽くたたくように乗り越えていく。

加速性能は強烈

 虎ノ門ヒルズの真下を通る築地虎ノ門トンネルを通ってお台場に抜け、東京ビックサイト近くの広い道でアクセルを踏み込んでみる。「ぐわっ」とシートに押し付けられるような強烈な加速が襲ってきた。EVらしく力強い加速が音もなく続く。静止状態から時速100キロまでに要する時間は5.3秒。欧州では、最大出力315キロワット(428馬力)、最大トルク543ニュートンメートルの全輪駆動版があり、0~100キロ加速は3.6秒だそうだが、私にはこの出力200キロワットの仕様で十分だった。

 試乗では、2頭のティラノザウルスが向き合ったような形で「恐竜橋」の愛称がある東京ゲートブリッジを2往復したが、橋の頂点に向かう長い登り坂でも加速力は十分。雨が降ってきた橋の長い下り坂でも走行安定性に不安はなかった。この少し高い速度域でも静粛性の高さは変わらなかった。

EX30の液晶画面の上部には周囲のクルマがCG画像で表示される
EX30の液晶画面の上部には周囲のクルマがCG画像で表示される

 南青山からお台場への往路と復路、少し混んだ道で運転支援機能も試したが、性能は可もなく不可もなくという印象だ。12.3インチの液晶画面の上部には、テスラと同様に周囲の車線やトラック、車がCG画像で表示され、車がまわりの車両を認識していることが分かる。渋滞の中でも前車にしっかりと追従して発進、加速、減速、停止する。ただ、高速を試すことはできなかったものの、運転支援系の性能は、ヒョンデ・コナの方が一枚上手の印象を受けた。

狭い路地で小回りが利く

 復路は、ボルボスタジオ東京に向かう最後の行程で、誤って小さなブティックが立ち並ぶ南青山の路地裏に迷い込んでしまった。返却時間を気にしながら、狭い道を路上駐車の車を避けながら走る羽目になったが、この時にしっかりとサイズと最小回転半径の小ささの恩恵を受けた。電費は、南青山とお台場の往復の47.5キロで、1キロワット時=5.3キロであった。

EX30の電費は47.5㌔を走り、1㌔㍗=5.3㌔だった
EX30の電費は47.5㌔を走り、1㌔㍗=5.3㌔だった

 EX30の試乗を終えての感想だが、サイズは小さいが、しっかりとボルボ・ブランドのデザイン、品質と走行性能を備えていた。しかも、ガラスルーフや高級オーディオなどの快適装備や最新の運転支援機能も装備している。このボルボ製EVが559万円というのは相当、戦略的な値付けであることが分かる。4月以降、国のCEV(クリーンエネルギーカー)補助金が45万円、東京都からは同様に40万円の補助金が支給され、東京都に在住なら474万円で購入できる。

 この価格は、ボルボの親会社である中国・浙江吉利控股集団(Zhejiang Geely Holding Group。以下、吉利グループ)のリソースを最大限に活かしたことで可能になったのだろう。

プラットフォームは吉利グループ、味付けはボルボ独自

 EX30のプラットフォーム(車台)は吉利グループの吉利汽車が開発したEV専用の「SEA(Sustainable Experience Architecture)」を活用している。そのため、モーター、バッテリー、サスペンションなどの土台部分は、吉利グループのEV専用ブランドのZeekrの「Zeekr X」などと共通だ。生産は吉利汽車の張家口工場(河北省)で行っている。吉利グループは、2023年に前年比20%増の279万台の新車を販売した世界11位の自動車グループであり、ボルボはそのサプライチェーンも含めたスケールメリットを享受することができる。

 一方、EX30のデザイン、安全・環境性能の開発は、スウェーデンのイエーテボリにあるボルボ本社のデザイン・研究開発部門とセーフティセンターが担っている。内外装だけでなく、サスペンションの味付け、安全・環境への取り組み、インフォテインメントシステムの開発は、ボルボ独自のものだ。

 年内には、より値段の安いLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池を搭載した後輪駆動モデルと、NMC電池を搭載した高出力の全輪駆動モデルを日本に投入することを検討しているという。ボルボの日本市場開拓への強い意気込みがうかがえる。(稲留正英・編集部)

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