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処理水放出で落ち込むも23年の水産物輸出総額は最高値更新 中国禁輸解除が課題 小林祐喜

放出が続く限り、科学に基づく情報発信が欠かせない(北海道北見市の常呂漁港で23年6月)(本多竹志撮影)
放出が続く限り、科学に基づく情報発信が欠かせない(北海道北見市の常呂漁港で23年6月)(本多竹志撮影)

 東京電力福島第1原子力発電所にたまる130万トンを超える「処理水」の海洋放出は、2024年3月末に4回目の放出を終えた。23年度は計画どおり、計3万1145トンを放出した。24年度は計7回、約5万4600トンに増やして放出予定で、5回目は4~5月に計画されている。

 処理水とは、11年3月のメルトダウン事故により溶け落ちた核燃料を冷却するために注入され、汚染された水から、専用装置で放射性物質を除去したものだ。

 23年8月に始まった放出では、基準値を超える放射性物質は検出されていない。しかし、最大の輸出先だった中国が昨夏、日本産魚介類を禁輸にするなど、海洋放出は水産業に影響を与えている。

北米向け前年比2倍

 23年の水産物輸出は10月、前年同月比でマイナス28.2%の254億円と大幅に落ち込み、11月は同マイナス18.8%、12月も同マイナス8.6%と禁輸の影響を受けた。しかし、1年の総額は3901億円と前年比0.7%増で過去最高を記録した。うち最大の輸出品目のホタテは、日本産水産物に対する中国の検疫強化が始まった6月に前年比10%超下落したが、その後下げ止まり、12月の取引価格は前年を上回った。北海道産ホタテの北米向け輸出が前年比で2倍に増えるなど販路拡大の取り組みが続いている。

 筆者の所属する笹川平和財団では、海洋放出そのもののトラブルの有無と、国内外に向けた日本政府の情報発信といった「情報戦」の効果を掛け合わせて四つのシナリオを検討してきた。そこから分析すると政府は「情報戦」を有利に展開できており、水産業や経済社会全体への影響を抑える最善、あるいは次善シナリオに進みつつある。このまま進めば、水産業や観光業の堅調な推移と海外からの投資などで7.7兆円以上の効果が見込まれる。

 だが課題は残されている。中国で高級品として好まれるナマコやアワビの価格は、前年同月比で10%超の下落傾向が続く。ホタテの価格も24年1月は前年比7%減の1キログラム=931円で、まだ安定していない。

 東電は「51年までに放出を完了」としている。水産業の再興は、科学的根拠に基づく中国の禁輸解除のほか、国内消費の喚起にかかっている。01年に国民1人当たり40.2キログラムだった水産物消費は21年には23.2キログラムに落ち込んだ。海洋放出の安全を確保し、情報発信を続けるほか、国内市場を再活性化する取り組みが求められる。

(小林祐喜・笹川平和財団安全保障研究グループ研究員)


週刊エコノミスト2024年4月9日号掲載

国産水産物 ホタテの価格が回復 中国禁輸の解除が課題=小林祐喜

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