国際・政治

中国の不動産不況が抱える構造的問題とは 木村彩月

地方ほど厳しい(黒竜江省鶴崗市、Bloomberg)
地方ほど厳しい(黒竜江省鶴崗市、Bloomberg)

 金利引き下げや規制緩和の効果は期待できず、購入層は着実に減少、経済の最大の下押し圧力は強まる一方だ。

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 中国の2023年の実質GDP(国内総生産)成長率は、政府目標の「前年比プラス5.0%前後」を上回る同プラス5.2%となった。ただ、前年が同プラス3.0%と、コロナ感染症拡大の影響が大きかった20年以来の低い伸びだったことを踏まえれば、景気の回復ペースは鈍い。

積み上がる住宅在庫

 中国経済にとって、最大の下押し圧力となっているのは不動産市況の低迷である。20年8月、「三条紅線」と呼ばれる不動産デベロッパーに対する融資規制が敷かれたことを契機に、多数のデベロッパーが経営難に陥った。すでに規制は緩められているものの、昨年も業界最大手の碧桂園が債務不履行を引き起こすなど、民営中心にデベロッパーの資金繰りは厳しい状況が続いている。

 不動産市場に関する主要指標を確認すると、住宅販売面積が落ち込み、在庫面積が拡大するなか、不動産開発投資の前年割れが続いている(図1)。在庫消化には相当の時間がかかるとみられる。中国指数研究院の公表データで比較可能な44都市の在庫吸収期間(平均)は24年2月時点で34.3カ月と、21年末の18.8カ月から約1.8倍に長期化している。そうしたなか、24年2月の主要70都市の新築住宅価格は21年のピーク時から4.4%、中古住宅価格は9.8%下落した。

 都市階級別に見ると、人口減少が進む地方都市ほど不動産価格の下落幅が大きく、中小規模の3線都市以下の新築住宅価格は同マイナス6.7%、中古住宅価格では同マイナス10.9%と1割以上減価している。家計の保有資産の約7割を占めるといわれる住宅価格の下落は、バランスシート悪化による逆資産効果を生じさせており、家計消費の減退にもつながっている。

 政府当局は、主要都市における住宅ローン契約時の最低頭金比率の引き下げ、適用金利の引き下げなどの需要喚起策を相次いで講じているほか、今年2月には、住宅ローン貸し出しの基準金利となる5年物ローンプライムレート(LPR)を引き下げるなどの金融緩和を進めている。足元では、人民元安に伴う資金流出懸念から追加緩和に慎重な姿勢を見せているものの、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げが年内に想定されているなか、今後さらなる金融緩和に踏み切る可能性が高い。

 それでも需要喚起効果は、限定的なものにとどまる公算が大きい。住宅価格が値上がり続けるという「土地神話」が通用しなくなった今、キャピタルゲイン(値上がり益)を狙った投機目的の住宅購入意欲はしぼんでいる。中国人民銀行(中央銀行)が23年第4四半期に実施した家計調査によれば、住宅価格が今後上昇すると予想する割合(12.3%)が下落すると予想する割合(20.2%)を下回ったという結果も出ている。実需にも期待はできない。国連の予測では、主要な住宅購入層である25〜34歳の人口は24年にピーク時(17年)対比マイナス15.9%、30年には同マイナス30.5%まで大幅に減少する見込みである。

地方の「隠れ債務」66兆元

 不動産不況の長期化により、地方政府は深刻な財政難に陥っている。地方政府の歳入は一般公共収入、政府性基金収入、国有資本経営収入、社会保障基金収入に大別されるが、日本の特別会計に相当する政府性基金収入は、地方政府主導で実施されるインフラ開発など各種投資プロジェクトに重点的に利用される。

 この政府性基金収入のうち、約9割を占めるのが土地使用権譲渡収入である。中国の土地は公有制のため、地方政府は土地使用権の売却という形態で莫大(ばくだい)な収入を得てきた。投資主導で高成長を実現してきた中国経済にとって、同収入は成長率を押し上げる重要な財源だった。23年の同収入は21年比でマイナス33.4%、すでに不動産不況入りしていた22年比でもマイナス13.2%と大きく落ち込んだ。人口が流出し、住宅価格の下落幅の大きい地方都市ほど収入減の影響を受けている(図2)。

 23年の地方政府の政府性基金収入は6.63兆元(約139兆円)と前年から10.1%減少、支出は9.65兆元(約202兆円)で8.2%減少した。地方政府の政府性基金収支の赤字は主に地方政府が発行する特別債によって補填(ほてん)されるが、23年末時点の特別債の債務残高は24.87兆元と、5年前の水準から約3.4倍に拡大した。それに伴い、一般債も含めた債務の利払い費も約2.5倍に膨らみ、地方政府の抱える負担は一層重くなっている。

 また、国際通貨基金(IMF)の推計では地方政府傘下の投資会社である融資平台が抱える「隠れ債務」は約66兆元に上っており、負担の実態はさらに重い。IMFは27年には隠れ債務を含めた地方政府債務がさらに1.5倍に拡大するとの見通しを示している。

 中央政府は、債務状況が悪化している地方政府への移転支出を拡大しているほか、金利負担軽減を目的とした融資平台債務の地方政府債務への借り換えなどを進め、利払い費の圧縮、債務リスク低減を図っている。もっとも中央政府の債務比率は地方政府に比べ比較的低水準とはいえ、持続可能なレベルではない。急速に進む少子高齢化により、社会保障費などの財政負担増が確実視されるなか、財政支出縮小を図るのも困難で地方政府には土地財政からの抜本的改革が求められるが、容易ではない。

 土地使用権譲渡収入に代わる財源として、03年ごろから日本の固定資産税に相当する不動産税の導入が計画されたが、これまで一部都市で試験的に導入したものの、構想から20年以上を経ても全国への適用拡大には至っていない。不動産税の導入は、不動産市況のさらなる悪化を招くリスクをはらんでおり、政府としてもなかなか本格導入には踏み切れないものとみられる。

 中国の不動産価格の下落幅とペースは、日本のバブル崩壊時に比べれば小幅かつ緩やかだが、不動産需要のピークアウト、地方政府の過剰債務など構造的な問題を抱えるなかで、中長期的な成長率鈍化が避けられない公算が大きくなっている。

(木村彩月〈きむら・さつき〉明治安田総合研究所エコノミスト)


週刊エコノミスト2024年4月30日・5月7日合併号掲載

崖っぷち中国 不動産 需要ピークアウトと価格下落 地方政府の過剰債務の三重苦=木村彩月

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