国際・政治

原油高騰の背景に“世界分断”の流れ ホルムズ海峡封鎖のリスク急浮上 吉田哲

 足元で原油相場の上昇が目立っている。昨年末からの上昇率は20%前後だ。イランによるイスラエル攻撃を受け、1970年代後半の中東情勢の緊迫化を連想した投資家が価格上昇を見越して買っている模様だ。

 中東情勢の悪化は、イスラエルの国家樹立を起点としたユダヤ人の帰還と武力によるアラブ人居住区縮小の歴史の延長線上で起きていると考えられるが、これに加えて2010年ごろに目立ち始めた「世界分断」が関わっていると筆者はみている。08年のリーマン・ショック後の西側の対応やSNS(交流サイト)の普及などが世界の分断を深め、中東を含む複数の戦争の勃発・激化の一因になったという考え方である。

 西側の対応とは、ESG(環境・社会・企業統治)を“武器”として利用し、産油国や強権的な体制を敷く非西側の国々を強く批判したことだ。ESGのビジネス利用によって、確かに経済回復・株価上昇は見られたが、武器としての利用がもたらした負の影響で西側と非西側の分断は深まった。

 SNSの普及とは、スマートフォンの利用者が増加する中で、同じ思想を持つ者同士がつながり、異なる思想を持った人を攻撃して国家を転覆させたり、ポピュリズム(大衆迎合)を利用して選挙で勝利するリーダーが誕生したりしたことだ。これにより、西側の影響力が低下し、非西側の台頭を許した。

 西側から支援を受けるウクライナと非西側の急先鋒(せんぽう)であるロシアの間での戦争や、英国が国家誕生に深く関わり誕生後は米国が擁護し続けてきたイスラエルと、79年の革命後に改めて西側と反発し合う関係になったイランとの戦争のいずれについても、分断が深く関わっていると考えられる。

追い込まれたイラン

 イランは00年代半ばから国連や米国などに断続的に核開発をけん制するため制裁を科され、原油輸出量が約10年間で半分以下になった。財政・政治的に追い込まれたイランの西側への反発姿勢が顕在化するリスクに警戒しなければならない。イスラム武装組織への支援やイスラエルへの直接的な攻撃が、世界分断の一因を作ったり、イスラエルを擁護したり、ESGで産油国を攻撃したりした西側への積年の恨みをはらす意味が含まれている可能性は否定できない。

 イランは「ホルムズ海峡封鎖」のカードを持っている。同海峡は中東産原油の輸送上の大動脈だ。このカードを切ることはイラン自身にもダメージが及ぶが、封鎖しない保証はない。原油高が、日本を含んだ西側諸国に高インフレをもたらし、経済不安だけでなく金融政策の方向性を不透明にするなどの複数の懸念を振りまくきっかけになることを、イランは知っているだろう。

(吉田哲・楽天証券経済研究所コモディティアナリスト)


週刊エコノミスト2024年4月30日・5月7日合併号掲載

原油高騰 背景に「世界分断」 海峡封鎖リスク 吉田哲

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