国際・政治

脱“崖っぷち”の中華IT ファーウェイは独自技術で先端半導体を量産 高口康太

上海市のファーウェイ販売店の前で開店を待つ人々(Bloomberg)
上海市のファーウェイ販売店の前で開店を待つ人々(Bloomberg)

 米トランプ政権が始めた先端機器の対中禁輸措置がスマートフォンの販売動向に影響を及ぼしている。

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 米アップルの株価が軟調だ。4月10日終値は昨年12月29日終値より12.9%安い。同じ間に7.7%上昇したナスダック総合指数と好対照だ。一因は中国市場の不振だろう。香港の調査会社カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチのリポートによると、アップルが中国で販売したスマートフォンの台数は、昨年10~12月は前年同期比9%減、2024年初6週間は同24%減と落ち込んだ。

 一方、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)はそれぞれ71%増、64%増と急成長した。年初6週間の市場シェアは17%に急伸し、アップルの16%を上回った(図)。

 ファーウェイは常に好調だったのではない。米トランプ政権が19年、禁輸措置の対象となる「エンティティーリスト」に同社を加え、20年に規制をさらに強化したことで、同社のスマホ事業は壊滅的な打撃を受けた。先端半導体や製造装置を輸入できなくなり、米情報技術大手グーグルのアプリをインストールできなくなった。日本を含む海外での販売は急減した。

 ところが、ファーウェイは中国国内では復活した。原動力となったのは昨年8月末に発売した新機種「メイト60」シリーズだ。子会社が中国で設計・開発した半導体「キリン9000s」を搭載し、第5世代移動体通信規格(5G)に対応する。回路線幅は7ナノメートル相当と見られる。これほど早く先端半導体の製造に成功したことは世界に衝撃を与えた。規制導入前に調達した設備などを使って製造したようだ。

「中国が勝った!」

 中国メディアはメイト60の発売直後から各地の販売店前に長蛇の列ができ、「ダフ屋」まで出現したと伝えた。一時は予約ができないほど品薄となった。中国紙『環球時報』電子版は昨年8月31日の社説で、「ファーウェイ携帯は3年間の沈黙の後、復活した。これは米国の制裁がすでに失敗したことを証明している。米国の対中科学技術戦争の縮図にして過程の反映であり、最終的な結果を予期させるものとなった」と評した。米国の制裁に中国の技術が勝ったという高揚感が高まったのだ。それから7カ月以上たった今も注文から入荷まで数週間待つという。

 ただ、復活が今後も続くかどうかは予断を許さない。米政府は先端半導体の開発や製造に必要なソフトウエアの対中禁輸措置を導入しており、ファーウェイが性能を向上させられるかは未知数だ。米政府が今後、禁輸措置を強化する可能性もある。ロイターは4月4日、バイデン政権は近く「オランダの半導体製造装置メーカー最大手ASMLに対して、中国での製造装置向けの保守点検などのサービス業務を打ち切るよう要請する方針だ」とスクープした。実現すれば、先端半導体の製造は一層困難になるだろう。

 ただ、禁輸措置はファーウェイにプラスとなる面もある。人工知能(AI)用の計算に使う画像処理半導体(GPU)などの国内販売を独占できる可能性が高まるからだ。GPU最大手の米エヌビディアは2月に開示した年次報告書で、ファーウェイを初めてGPUなどの競合他社の一つに挙げた。

 ファーウェイの復活とアップルの苦境はいつまで続くのか。米政府に大きく左右される状況は続きそうだ。

(高口康太〈たかぐち・こうた〉ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年4月30日・5月7日合併号掲載

崖っぷち中国 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転=高口康太

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