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教養・歴史 書評

階級を固定する「体験格差」の解消には社会が子どもの豊かな体験を支える必要がある ブレイディみかこ

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 9年前に、ネットのニュースメディアに「労働者階級の子どもは芸能人にもサッカー選手にもなれない時代」という記事を書いたが、なぜか今でも時々SNSで取り上げられているのを見かけることがある。一昔前なら、英国では「労働者階級の子どもが成功したいなら、芸能人かサッカー選手になるしかない」と言われたものだったが、今はそれすら不可能になった、ということを書いた記事だったが、だんだん日本でも同じようなことを感じる人が増えているのだろうかと思う。

『体験格差』(今井悠介著、講談社現代新書、990円)は、「息子が突然正座になって、泣きながら『サッカーがしたいです』と言ったんです」という日本のシングルマザーの言葉から始まる。習い事やスポーツや旅行など、子どもたちの成長(成長してからも)に必要な「体験」は、日本社会では子どもにとって「必需品」とは見なされていないと本書には書かれている。日本の一般市民にとって、趣味やレジャー、1週間以上の旅行(英国でホリデーと呼ばれるやつだ)は子どもにとって必要なものという意識が低いらしい。

 これは日本の教育のあり方やエリートの概念の偏りにも関係しているだろう。英国のエリートは学業だけでなく、スポーツ、芸術、音楽など広範な分野でのホリスティック(包括的)な知識と実技能力を持つ人々を意味する。だから、「体験」は子どもの成長に必須と考える人が多いが、そうわかっていても、「体験」をさせることができるのは恵まれた家庭のみだ。この点は、英国も日本も同じである。

 自分が子どものときに「体験」できた親は、子どもにも同じように「体験」をさせようとする。貧困がそうであるように、「体験」の有無も連鎖するのだ。

 貧困、家庭環境、在住地域などの「生まれ」によって子どもの「体験」の量と質は左右される。そしてそれによって発生する格差を放置しておけば、階級と呼ばれるものができあがり、固…

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週刊エコノミスト

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