中国がオーストラリア向け貿易制裁ほぼ解除 摩擦の種は残るも 岸田英明
中国商務部は3月29日、オーストラリア産ワインに課していた懲罰関税を撤廃した。2021年3月に導入され、最大で218.4%が課されていた。反ダンピングおよび補助金相殺関税と説明していたが、実際は「反中国的」行為に対する経済的威圧措置だった、というのが市場の一致する見方だ。今回の撤廃で、20年以降の一連の豪州向け貿易制裁は、生きロブスターの輸入制限などを除き、ほぼ解除されたことになる。
反中国的行為とは、20年11月に在豪中国大使館が出した声明に整理されている。新疆ウイグル自治区や香港、台湾問題への干渉、最新通信規格「5G」の豪州の整備事業からの中国通信機器大手ファーウェイの排除、豪州のインフラや農業プロジェクトに対する中国企業の投資の阻止などだ。中でも引き金は、20年4月に当時のモリソン政権が、新型コロナウイルス感染症の発生・流行に関する国際調査を求め始めたことだ。結果次第で中国はパンデミックの責任を負わせられかねず、猛反発した。
以降、中国は一部豪州産食品や資源の輸入を止めたり、高関税をかけたり、自国民に豪州への渡航中止を呼びかけたり、豪州籍ジャーナリストをスパイ容疑で拘束するなど、圧力を強めていった。20年秋には、外資を含めた北京の貿易事業者が突然当局に呼び出され、豪州との取引に関して指導を受けたこともあった。
転換点は豪州の政権交代だ。22年5月の総選挙で労働党が勝ち、相対的に対中融和的なアルバニージー政権が発足。6月に中豪閣僚級対話が2年ぶりに再開し、11月にはバリ島で首脳会談が持たれた。関係正常化のムードが醸成される中、中国は23年1月に豪州産石炭の輸入規制を一部解…
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週刊エコノミスト
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