2035年の人手不足は人材ミスマッチ含め670万人 山藤昌志
2035年には働く人が減るだけでなく、人材のミスマッチが顕著となる。企業にはメリハリを利かせた「人への投資」が求められる。
2024年春闘での賃上げ率は、実に33年ぶりという高水準を記録した。この背景には22年以降に顕在化した物価上昇という後押しがあるが、中小企業を含む広範な賃上げが実現した主因は、何といっても労働力不足である。
日本の労働供給は、少子高齢化の圧力が高まる中、女性・シニア・外国人材の追加的な労働参加を通じて、ここ数年、かろうじて横ばい傾向を続けている。23年の就業者数は6747万人と、過去最高の水準にあり、20年代後半までは労働力を拡大できるだろう。
しかし今後10年を展望したとき、日本の労働供給力は確実に減退する。理由は次のとおりだ。女性の労働参加率は既に上限に近付いている。シニアの就業率は向上余地があるが、フルタイム就業が少なくインパクトは限定的となる。さらに外国人材は今後も増加が見込まれるが、労働力の自然減をカバーできるだけの受け入れは非現実的だろう。大きな政策変更がない限り、35年時点の就業者数を6440万人と見込んでいる。
一方、今後日本の経済を支えるためにはどの程度の労働力が必要なのか。労働生産性が現在と変わらない場合、35年時点で約6900万人の労働力が必要となる。前述した労働供給と照らし合わせると、少なくとも約460万人の労働力が不足しドライバー不足で物流が滞るなど、生活水準の低下を余儀なくされるという悲観的な姿が浮かび上がる。こうした供給制約を回避し、日本経済を成長軌道に乗せるためにも、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じた省人化、効率化、生産性向上が不可避となる。
人材ミスマッチは480万人
では、DX化で労働需給ギャップは解消するのか。重要なのは、DX推進にも人が必要である点だ。さらに、グリーントランスフォーメーション(GX)や半導体産業の再生にも、少なからず労働需要が発生する。DX・GX・半導体産業再生が実現した場合に起こる需要の増減を踏まえて試算した結果、35年時点に必要な労働需要は約6630万人に上る。35年の就業者数に照らすと、最終的に190万人の供給不足となる。
さらなる重要なポイントが、こうした産業構造改革を実現するために必要な人材要件と現在の日本の人材要件に、大きなミスマッチが存在することだ。今の日本には、デジタル技術をビジネスに生かす人材、洋上風力発電や半導体製造を担う人材が不足している。DX化に伴う事務職などの余剰も発生しており、人材ミスマッチは頭数でのギャップ190万人をはるかに上回る480万人規模、35年時点での全体としての不足数は670万人規模、就業者の1割を超える水準に上ると見込んでいる(図)。
労働市場の本質的な課題は、単なる人手不足ではなくミスマッチの解消だ。人口減少で労働供給力の減退が強まる中、解消がなければ更なる人手不足にもつながる。解消に向けては、成長実現に必要となる人材要件を明確化し、求められるスキルの獲得を促し、企業内外を問わず人材を流動化させ、適所で適材を輝かせなければならない。またその実現には、適所で活躍する人材に報いる評価制度も必要となる。企業には、一律の賃上げでなく、働き手のモチベーションを高めるメリハリを利かせた「人への投資」が求められる。
(山藤昌志〈さんとう・まさし〉三菱総合研究所政策・経済センター研究提言チーフ)
週刊エコノミスト2024年5月14・21日合併号掲載
人口半減 労働力不足 2035年の就業者数は300万人減 極端に不足するのはDX・GX人材=山藤昌志