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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

『ゾロリ』でギネス記録――原ゆたかさん

とにかく子どもが次々にページをめくりたくなる設定を心がけている。「1冊1000円近く払ったのに、損したと思われたくないからね」」 撮影=武市公孝
とにかく子どもが次々にページをめくりたくなる設定を心がけている。「1冊1000円近く払ったのに、損したと思われたくないからね」」 撮影=武市公孝

児童書作家 原ゆたか/114

 今日も風の吹くまま、気のむくまま、いたずらの王者を目指し、旅を続けるゾロリとその子分たち。どんな問題もおやじギャグとおならで撃退し、子どもたちからは大人気。向後万端(きょうこうばんたん)引き立って、よろしくお頼み申します。(聞き手=永野原梨香・ライター)

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── 児童書『かいけつゾロリ』シリーズの最新刊、『かいけつゾロリ ノシシいきなり王さまになる!』(74巻、2023年12月発売、ポプラ社)では、新型コロナウイルス対策のアクリル板が登場するなど世相を反映していますね。

原 今の子どもたちはアクリル板のある生活を経験してきましたからね。5年後の小学1年生に「ピンと来るかな?」とは思いましたが、衝立(ついたて)として考えてもらえば分からないことはないかな。私は結構、その時代のパロディーを話の中に入れちゃうんですよ。

『かいけつゾロリのきょうふのサッカー』(14巻、1993年)を書いたのは、サッカーJリーグが誕生し、アルシンド選手が活躍していたころです。だから、この本の中に「アリャシンド」「コリャシンド」という選手を出したけれど、今の子どもにはそのパロディーは分からない。でも、サッカーの物語としては楽しめるように書いたつもりです。当時のはやりと当時の子にしか分からない物語を書いていたら、5年も持たなかったと思うのね。昔の巻も今の子が読み続けてくれているということは、子どもが面白がるポイントがそう変わっていないということなのでしょうね。

── 35年目に発売の『かいけつゾロリ にんじゃおばけあらわる!』(71巻、22年)で、「同一作者によって物語とイラストが執筆された単一児童書シリーズの最多巻数」としてギネス世界記録に認定されました。一貫して1年に2冊というペースで出版を続けています。

原 辞め時をなくしちゃってね(笑)。出版元のポプラ社には那須正幹さんの『ズッコケ三人組』という金字塔があって、50巻まで出ていた。それを超えたいと無謀なことを思ってしまって……。同シリーズが夏休みと冬休み前に出る仕組みだったので、それを踏襲したのです。51巻まで書こうと思っていたら、那須さんが一回筆をおいた後に、もう10巻、その後のズッコケ三人組を書かれたんです。「それじゃ、61巻までは書かなきゃ」と書いてきて、そのまま惰性で今に至ります。

『かいけつゾロリ』は、いたずらの王者を目指しているキツネの主人公ゾロリが、ゾロリを尊敬してやまないイノシシの双子の子分イシシ、ノシシと奇想天外な旅を続ける物語。泥棒のぬれぎぬを着せられたり、地獄に落とされたり、宇宙へ行くことになったり……。問題が起きるたびにいつも前向きに機転を利かせ、妖怪や恐竜たちの悩みをイシシとノシシのおならやゾロリのおやじギャグで解決していく。

“悪事”が誰かのために

── 『かいけつゾロリ』を書くようになったきっかけを教えてください。

原 当初、幼年童話の挿絵の仕事をしていたんです。挿絵は物語のついでのような役割でしたが、私はそのお話をより面白くするため、読者がページをめくりたくなるように工夫し始めました。児童書『ほうれんそうマン』シリーズの絵を担当していたのもそんなころ。7巻目が出た後、作話のみづしま志穂さんがしばらく休まれることになり、つなぎで敵役だったゾロリを主人公にして本を書いてはと出版社から提案され、自分なりの演出ができるかなと引き受けてしまったのです。

── ゾロリは“いたずらの修業”に出ますが、悪いことをしようとしてもうまくいきません。逆に、誰かのためになっていて感謝されることが多いような気がしますが。

原 もともとゾロリは悪者の設定だったので、子どもの本として「悪いことをすると何ごともうまくいかないよ。ちゃんとしようね」というお話にしていたのですが、徐々にゾロリファンが増えてくると、ゾロリの悪事を応援するファンレターが届くようになりました。困った揚げ句、悪いことをしようとしたことが誰かのためになったり、誰かを成長させたりする物語になっていきました。(天国で見守るゾロリのお母さんの)ゾロリママが優しいキャラクターなので、ゾロリも情にもろく完全な悪にはなりきれないんですよね。

── ゾロリは武器を持っていませんね。

原 ゾロリがアニメ化された時、「武器を持たせると、アニメのオリジナルストーリーが作りやすかったり、スポンサーがおもちゃを販売できたりする」と頼まれたのですが、戦いものを好まない私はおならのにおいで戦意喪失させたり、おやじギャグで凍らせたりすることで平和的な解決を目指しました。そのため、発売当初は下品だということで学校や図書館に置いてもらえなくて。でも、子どもたちが読み続けてくれたおかげで、今では本を読むきっかけになると理解してくれ、どの図書館にも置いてもらえるようになりました。

── 発売当時、ゾロリを読んでいた子どもも、今では親世代。最近は、以前の話に登場したキャラクターが再登場して、親子で楽しめるような話も書いていますね。

原 その展開は、韓国ドラマ「愛の不時着」を見てからです。あのドラマは主役を幸せにするだけでなく、周りで助けてくれた脇役たちにも、愛をもってご褒美をあげ、みんなを幸せにしてあげるんですよ。自分の…

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