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インテルの後工程技術 日本で15社・団体の研究組合 シャープの液晶工場の活用も 服部毅
世界最先端の半導体メーカー3社が微細化の限界を打破するため、半導体チップを垂直に積み上げて集積化を進める三次元実装(パッケージング)へ一斉に乗り出している。台湾TSMCはすでに茨城県つくば市に3DIC(三次元集積回路)研究開発センタ―を設置し、その技術成果は、台湾の先進後工程工場に移転している。韓国サムスン電子も神奈川県横浜市みなとみらい地区に「アドバンスド・パッケージ・ラボ」を年内に設置する。
残る米インテルも昨年来、日本の自動搬送装置メーカーなどに声をかけて、全自動パッケージング試作ラインを構築する準備を進めてきた。そして、インテルを中心に半導体製造装置や自動搬送装置メーカー、標準化団体など15の企業・団体が4月16日付で「半導体後工程自動化・標準化技術研究組合(SATAS)を東京都千代田区に設立。2028年の実用化を目指し、半導体後工程の自動化や標準化に取り組む。
SATASは、理事長をインテル日本法人の鈴木国正社長が務めるが、インテルからプレスリリースでの発表はない。インテル独自の研究施設ではなく、補助金の受け皿としての経済産業省所管の技術研究組合組織(CIP)になっている。経産省は、日本の装置・材料メーカーを支援する姿勢を強調したいのだろう。
オムロンやダイフクなどが加わる組合員15社の中に、意外な2社が含まれている。一つは半導体業界になじみのない三菱総合研究所で、理事を送り込み事務局を担当するが、研究は分担していない。もう一つは、先進半導体とは無縁のシャープで、パイロットライン構築を担当する。同社の液晶パネル事業は赤字続きで、亀山工場(三重県)などのクリーンルームを他社に貸し出す検討をしていたので渡りに船だろう。近く操業中止する堺工場(大阪府)を半導体後工程工場に転用するうわさもある。
インテルは、3DICに従来のシリコン基板や有機樹脂基板に替えて安価なガラス基板を採用することを検討しており、そうなるとシャープの液晶パネル用ガラス基板の技術が役立ちそうである。
過去の反省生きるか
TSMCとサムスンの研究施設では、半導体材料メーカーと個別にNDA(秘密保持契約)を結んで非公開で独自の実装プロセス開発が行われるのに対して、SATASは組合企業が協業して開発を行う。
過去に経産省が主導してきたいくつものCIPが半導体復権につながらなかったのは、組合員がライバル同士のため核心技術や優秀な人材を供出せず、結局は参画企業より進んだ技術開発ができなかったからだ。SATASには過去の反省が生かされるのだろうか。
また、SATASは世界標準を設定することを目標に掲げているが、先端技術開発が遅れ気味のインテルの仕様を世界標準にするには、独自開発しているTSMCやサムスンを巻き込む必要があるだろう。
(服部毅・服部コンサルティング・インターナショナル代表)
週刊エコノミスト2024年5月28日号掲載
FOCUS インテルの後工程技術 日本で15社・団体の研究組合 シャープの液晶工場の活用も=服部毅