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トヨタが営業益5兆円超 空前の好決算でも危機感強く 河村靖史

好決算を手放しでは喜べない(トヨタ自動車の佐藤恒治社長=東京都中央区で2024年5月8日)
好決算を手放しでは喜べない(トヨタ自動車の佐藤恒治社長=東京都中央区で2024年5月8日)

 トヨタ自動車が5月8日に発表した2024年3月期連結決算(国際会計基準)は、本業のもうけを示す営業利益が5兆3529億円と、日本企業として過去最大となり空前の好決算となった。売上高営業利益率も前期比で4.6ポイント増の11.9%と業界トップクラスの稼ぐ力を示したが、トヨタに高揚感はない。背景にあるのが将来に向けた危機感だ。

 好調な業績は、欧米市場での高付加価値なハイブリッド車(HV)の販売伸長とインフレを反映した値上げ、そして円安による為替差益が主因だ。連結販売台数は前年同期比7%増の944万台で、中でも1台当たりの利益率が改善したHVが同32.1%増の359万台と大幅に伸びた。また、欧米を中心とした車両価格の値上げも収益拡大につながり、営業利益で約1兆円の増益効果があった。

 一方、25年3月期は一転する。世界販売は同0.6%増と微増を計画しながら、営業利益は4兆3000億円と大幅減益を見込む。理由は将来に向けた投資を拡大するためだ。環境対応車として普及が本命視された電気自動車(EV)は、欧米市場を中心に充電インフラ整備の遅れや価格の高さなどから新規需要が一巡している。代わってHVやプラグインハイブリッド車(PHV)の市場が拡大し、トヨタは大きな恩恵を受けた。

取引先にも「還元」

 しかし、多くの関係者はEV市場が再び急拡大すると見ており、最も有力視されているのが中国系EVメーカーだ。EV市場で存在感を増す比亜迪(BYD)だけでなく、華為技術(ファーウェイ)や小米科技(シャオミ)などのIT系、民生用ドローンを手掛けるDJIなどが相次いで参入し、価格の安さだけでなく人工知能(AI)を使い先進的なEVを開発している。

 EVで出遅れるトヨタには、新興ライバルに対抗するには巨額の先行投資を実行しなければ、一気にシェアを奪われかねないとの危機感がある。25年3月期の営業利益を大幅減益と見込むのは「自動車産業全体の魅力を高め、ステークホルダーとともに成長していくため」(トヨタ・佐藤恒治社長)の合計2兆円の投資を理由とする。

 そこで電動化やAI、車載ソフトウエアなど、自動車や関連サービス分野での競争力強化のため、設備投資と研究開発で計1兆7000億円を投じる。加えて取引先、販売店の賃上げ負担や従業員の職場環境改善に約3800億円も投資する。取引先への利益還元は当然で「車両の値上げで1兆円の増益効果があったのなら(3800億円は)少なすぎる」との意見もある。

 今回の好決算は取引先に対する利益還元の先送りや円安による「一時的」なもので、手放しでは喜べない。稼いだ資金を投資に充てる計画だが、EV市場の成長率が鈍化している間に、ライバルに追い付けるレベルになれるのかの保証はどこにもない。

(河村靖史・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年5月28日号掲載

FOCUS トヨタ空前の決算 営業益5兆円超でも危機感の巨額投資=河村靖史

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