「サイドウェイ」のペイン&ジアマッティが再び醸し出すビタースイートな風味 芝山幹郎
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映画 ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
フィルムで撮ったのか、と思わせる始まり方だ。画面には傷が入っている。サウンドトラックには雑音が混じっている。服装も髪型も部屋の内装も、私の世代の観客なら、すべて見覚えがあるはずだ。もっと若い人でも、「さらば冬のかもめ」(1973年)の雰囲気を想起するのではないか。
「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」は、遊び心にあふれた導入部を用意する。時は1970年。舞台はマサチューセッツ州西部にあるバートン・アカデミーという全寮制の男子校。主な登場人物は、性格に難のある教師と、自分をもてあましている生徒。彼ら以外にも、問題を抱えた人物は多い。
ポール・ハナム(ポール・ジアマッティ)は、バートン校で古代史を教える教師だ。補助教員という不安定な身分で、教育熱心だが、偏屈で、融通が利かない。学校の資金源になる富裕層の息子にも、平気で落第点をつける。そして、アルコールにはすぐ手が伸びる。ジム・ビームが1本2ドルの時代だった。
そんな彼が、冬休みに帰省先や旅行先のない生徒5人の面倒を見る。休暇は2週間以上だ。
5人のうち4人は、早々に行く先が決まる。残ったのは、アンガス・タリー(ドミニク・セッサ)という18歳の少年だけだ。彼の母親は、再婚相手と新婚旅行に出かけてしまった。
真冬の寄宿舎には、学生食堂の責任者メアリー・ラム(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)も残っている。黒人のラムは、つい先日、19歳の息子をヴェトナム戦争で失ったばかりだ。
非正規雇用の問題、機能不全家族の問題、人種や貧困の問題。監督のアレクサンダー・ペインは、さりげない手さばき…
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週刊エコノミスト
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