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週刊エコノミスト Online 書評

常人にはたどり着けない“辺境領域”での貴重な研究 高部知子

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「あの人はマニアだよね」と言う時、これはほめ言葉だろうか。英語だとあまり良い単語のように思えないが、「マニアックな知識」という時は「非常に専門的」という意味が含まれるようにも思う。でもやっぱり「狂人的」という意味も含まれるのかな。研究畑に足を踏み入れてから、私の周りでそんなマニアな研究者をたくさん見かける。常人では決してたどり着けないような辺境領域まで、膨大な時間をかけて一歩ずつ向かっていく。今回選んだ本の著者はそうした世界の住人なのかもしれない。『奄美でハブを40年研究してきました。』(服部正策著、新潮社、1760円)。

 奄美(あまみ)群島の中央にある徳之島、ここはなんと毒蛇に噛(か)まれる確率が世界第1位の地域なのだという。特にハブ毒は筋肉を溶かし、痛みを止めるすべがない恐ろしいものらしい。そのため血清を開発する研究所が1902年に設立された。著者はそんな歴史ある東京大学医科学研究所の獣医さんで、奄美に住みながら40年間ハブと向き合ってきた。一般には知られていないようなハブの生態、対処の仕方、あるいは天敵と言われているがあれは実はヤラセで、実際はお互いに関心すらもたないマングースとハブの真実なども紹介してくれる。

 その他にも奄美はさすが世界自然遺産だけあって、アマミノクロウサギなど珍しい生物やさまざまな自然、文化が紹介されているのだが、意外なところで私もずうっと奄美と付き合っていたことに気が付いた。それは黒糖だ。本書のなかに奄美名産の黒糖焼酎の話が出てくるのだが、私は黒砂糖が好きで、デスクでの間食用に欠かしたことがない。しかも著者が言うように沖縄産と奄美産ではおいしさが全然違うと私も思うのだが、このホロホロとほどけるような口どけ感が奄美産特有のものだということを本書で初めて知った。

 また著者は養老孟司氏と同じ東大、同じ自然生物が専門ということでちょこちょこ同氏と…

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