国際・政治 FOCUS
極右勢が勝った欧州議会選の波紋 前倒しの仏下院選の結果次第で市場動揺 田中理
フランスでは欧州議会選挙で大統領支持会派・アンサンブルが極右政党・国民連合に敗北したことを受け、マクロン大統領が国民議会(下院)の前倒し解散・総選挙を決断した。
比例代表制だった仏選出の欧州議会選挙と異なり、国民議会選挙は577の小選挙区ごとの2回投票制で行う。6月30日の初回投票で50%以上の票を獲得する候補がいない場合、上位2人と有権者の12.5%以上の票を獲得した候補が7月7日の決選投票に進み、最多票の獲得者が勝利する。
過去の大統領選挙や国民議会選挙では、極右台頭への危機感から、初回投票で敗北した候補の支持者が大統領支持に回ることが多かった。だが国民連合は近年、ユーロ離脱などの極端な政策や人種差別的な発言を封印。28歳のバルデラ氏を党首に据え、党のイメージ刷新に努めてきた。高齢者や過激思想の持ち主が中心だった同党の支持者は、若者や一般市民に広がり、かつてのような極右勝利を止めようとする危機バネが働きにくくなっている。
マクロン氏にとっての脅威は極右ばかりではない。2022年の国民議会選挙で統一会派を結成し、野党第1党となった左派勢は、極右政権誕生を阻止するため、今回の選挙でも新たな統一会派を結成した。左派票の結集と反極右票の分断は、大統領支持会派の決選投票進出を難しくする。
前倒し選挙決定後の世論調査は、国民連合が単独過半数に迫る議席を獲得し、左派統一会派が2番手、大統領支持会派は3番手に沈む可能性を示唆する。国民連合が議会の過半数を握った場合、マクロン氏は極右政党から首相を任命せざるを得なくなる。いずれの勢力も過半数に届かない場合、第1党となる極右政党が非多数派政権を樹立するのか、2番手や3番手に沈む大統領支持会派が首相を擁立できるのか、政権運営の行方は極めて不透明だ。
フランス政治の中心的アクターである大統領は強い権限を持つが、議会が決めた法案に拒否はできない。過去にも大統領の所属政党と議会の多数派が異なる事態(コアビタシオン)が発生したが、大統領と首相の主張がここまで真正面から食い違ったことはない。国民連合は、移民規制の強化、欧州連合予算への拠出負担軽減、マクロン大統領が進めた年金改革の見直しなどを公約に掲げる。実行しようとすれば、マクロン氏との衝突は避けられない。
局地で進むユーロ安
政治不安を背景に、フランスの財政リスクが意識されている。フランスの国債格付けは、財政赤字の削減が進まず、債務残高が膨張することを理由に、5月末に格下げされた。極右政権の誕生で財政赤字が拡大するとの懸念から、フランスの国債や銀行株が売られ、ユーロ安が進んでいる。今のところ局地的な動きにとどまっているが、選挙結果次第ではフランス発で世界的な金融市場の動揺に発展する恐れがある。
(田中理・第一生命経済研究所首席エコノミスト)
週刊エコノミスト2024年7月2日号掲載
欧州議会選の波紋 前倒しの仏下院選挙 結果次第で市場動揺=田中理