教養・歴史 小川仁志の哲学でスッキリ問題解決

戦争の犠牲、人だけでなく、他の動物にも目を向けるべきでは/214

アルベルト・シュバイツァー(1875~1965年)。フランス出身の哲学者。医師、神学者としても活躍した。著書に『文化と倫理』などがある。(イラスト:いご昭二)
アルベルト・シュバイツァー(1875~1965年)。フランス出身の哲学者。医師、神学者としても活躍した。著書に『文化と倫理』などがある。(イラスト:いご昭二)

Q 戦争の犠牲、人だけでなく、他の動物にも目を向けるべきでは 戦闘の続くガザ地区では、動物園の動物たちも犠牲になっていると聞きます。戦争は人間だけでなく、あらゆる生き物の命を奪ってしまうという点にも目を向けるべきだと思うのですが。(公共交通機関勤務・50代男性)

A 生きとし生けるものは、生きることの神秘を体現するものとして畏敬すべきです

 最近日本でも事故や災害時に犠牲になる動物のニュースが報じられましたが、戦争が起こればもちろん動物たちは一番に犠牲になります。ガザで動物園の動物たちが犠牲になっているニュースは私も見ました。そして子どもの頃読んだ『かわいそうなぞう』を思い出し、胸が痛くなりました。太平洋戦争の際、殺処分の対象となった象の話です。

 この問題については、フランスの哲学者アルベルト・シュバイツァーの平和に関する思想を参考に考えてみたいと思います。シュバイツァーは密林の聖者の異名を持つ医師でもあり、アフリカでの医療活動が評価され、ノーベル平和賞を授与されています。

かわいそうなぞうの伝言

 その彼が唱える平和とは、個人の人格構造において初めて成立するものであるとされます。つまり、平和は個々人の人間性に委ねられているということです。人間性が主権を取れば平和が訪れるけれども、非人間性が主権を取れば戦争によって人類は滅亡するというわけです。とりわけ当時は核兵器の脅威が高まっていたこともあり、シュバイツァーはこのように極端な表現を用いたのでしょう。

 では、その人間性の根底にあるものとは何か? それこそが彼の平和思想の核といってもいい「生命への畏敬(いけい)」の概念にほかなりません。こ…

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