新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

教養・歴史 アートな時間

百年近く前の荷風の小説を原案に現代日本の空虚の内実に迫る 寺脇研

©︎2024BBB
©︎2024BBB

映画 つゆのあとさき

 勤め先のキャバクラの、コロナ禍による閉店を告げる貼り紙をぼうぜんと見る若い女。そうか、あの時期の話か。踵(きびす)を返して街に出た女が歩く夜の歓楽街は、そうか、渋谷か。そして、朝帰りしたマンション自室は、同居していた男が金目のもの全部を持ち逃げした模様だ。

 素寒貧となり、キャリーバッグ一つ引いてさまよう朝の渋谷は人通りもなく、烏の群れが路上に放置されたゴミを餌あさりしている……。この殺伐とした風景まで5分足らずの冒頭場面だけで、ヒロインの空虚な日常、浮遊する人生のあり方が伝わってくる。行き場のなくなった彼女は、出会い系喫茶で捕まえた男性客とのパパ活で日々の暮らしを成立させていくのだ。

 これが、まぎれもなく令和の時代に実在する風景である。大きなマジックミラーの向こうに並ぶマスク姿の女たちを、こちら側から品定めしているのは大企業のサラリーマンかもしれないし、ひょっとすると下卑た政治家かもしれない。相互間の匿名性を前提に情欲を満たす男たちと、金品を得る女たち……。

 嘆かわしい、と怒るなかれ。百年近く前の昭和初期、既に男女間のこうした構図は成立していた。そう、永井荷風が昭和6年に発表した小説『つゆのあとさき』は、銀座のカフェーを舞台に繰り広げられる若い女給たちとオジサンたちの色模様を描いている。銀座が渋谷、カフェーが出会い系喫茶と考えれば大して変わりはない。

 この映画を生んだ一連のシリーズは、『鍵』『卍』『痴人の愛』など明治から戦前の昭和にかけての情欲系小説を令和の現在によみがえらせようという企画だ。同じ脚本家・監督コンビの『蒲団』もなかなかの出来だったが、これは…

残り498文字(全文1198文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)が、今なら2ヶ月0円

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

11月26日号

データセンター、半導体、脱炭素 電力インフラ大投資18 ルポ “データセンター銀座”千葉・印西 「発熱し続ける巨大な箱」林立■中西拓司21 インタビュー 江崎浩 東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本データセンター協会副理事長 データセンターの電源確保「北海道、九州への分散のため地産地消の再エネ [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事