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米共和党の副大統領候補に39歳のバンス氏 バイデン大統領は選挙戦撤退 中岡望
今年11月に投開票の米大統領選で、トランプ前大統領は副大統領候補にJ.D.バンス上院議員を指名し、7月17日に共和党全国大会で承認された。バンス氏はベストセラーとなった『ヒルビリー・エレジー』の著者として知られるが、政界では1期目の新人議員である。バンス氏は自伝的な本の中で、米東部・アパラチア地方の白人労働者階級の貧困生活を描き話題になった。高校卒業後、海兵隊に入隊。除隊後、オハイオ州立大学を卒業し、エール大学法学大学院で学び、弁護士の資格を取得した。ベンチャーキャピタルの経営者を経て、2022年の中間選挙で上院選に立候補して当選。その出自から、自らを“白人労働者”と呼んでいる。
なぜトランプ氏は政治経験も浅いバンス氏を同伴者に選んだのか。権力者は腹心に最も忠誠心を示す人物を選ぶのが常である。今回も例外ではない。
バンス氏は当選が決まった翌日、トランプ氏の大統領復帰を支持すると表明した。中間選挙は共和党の大勝が予想されていたにもかかわらず、低調な結果に終わった。トランプ氏が支持した候補者は相次いで落選し前大統領の影響力の失墜が語られていた時である。トランプ氏にとって願ってもない援軍となった。その後も、トランプ氏への忠誠を示すために、反移民などのトランプ流ポピュリズムを展開している。
さらに決定的な要因となったのは、前大統領の最大の支持基盤である保守派キリスト教徒エバンジェリカル(福音派)の支持を得られることだ。第1期政権にペンス氏を副大統領に選んだのは、エバンジェリカルの支持を得るためだった。保守派や経済界の大口献金者から、バンス氏のポピュリスト的な経済政策を批判する声もあったが、トランプ氏は押し切った。
「トランプ後」も視野
今回の大統領選ではバイデン、トランプ両氏の高齢が問題となった。39歳のバンス氏を選ぶことで、新鮮な風を吹き込む狙いもあった。もしトランプ政権が誕生したら、現在78歳のトランプ氏に代わってバンス議員が政策をリードする可能性もあるだろう。共和党内では既に「トランプ後」の議論も始まっている。誰がトランプ支持者の「MAGA(米国を再び偉大に)運動」を継承するのか注目されるが、バンス氏がその一番手になったのは間違いない。
一方、バイデン氏は7月21日に選挙戦から撤退すると発表。トランプ陣営は、高齢による衰えが隠せなくなったバイデン氏の方が戦いやすいと見ていた。バイデン氏はハリス副大統領を支持したが、最終決定は8月下旬の民主党大会まで持ち越されるだろう。民主党の大統領候補が誰になったとしても、選挙構図はがらりと変わることは間違いない。
民主党から若い大統領候補が出てきたら、トランプ氏も安閑としてはいられないだろう。バンス氏の果たす役割が大きくなるのは間違いない。
(中岡望・ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2024年8月6日号掲載
混迷する米大統領選 共和党副大統領候補にバンス氏 バイデン氏は選挙戦撤退を表明=中岡望