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米政府のEV普及策は“もしトラ”で終了か マスク氏のトランプ陣営支援の効果は? 河村靖史
バイデン米大統領が大統領選からの撤退を表明する中、トランプ前大統領の電気自動車(EV)戦略に関する発言が、日米を含めた各国の自動車メーカーに揺さぶりをかけている。
トランプ氏は、7月18日の共和党大会での演説で「EV普及の義務を(大統領就任)初日に終了する」と述べ、自身が11月の選挙で当選すれば、就任式がある25年1月20日当日にEVなどの環境車政策を抜本的に見直す考えを強調した。
EV政策の見直しで大きな影響を受けそうなのが、米国自動車メーカーや米国を主力市場とする日系自動車メーカーだ。
民主党のバイデン政権は選挙を前に、強力な支持基盤である全米自動車労組(UAW)に配慮し、部品点数が内燃機関車より少ないEVを普及させる政策を前面に掲げてこなかった。ただ支持層は気候変動への関心が高い富裕層が多く、もともとはEV普及を看板政策として推進していた。EVに否定的なトランプ政権に代われば、バイデン政権のEV普及路線が180度転換される可能性がある。
その具体的な見直し策として浮上しそうなのが、EVへの補助金政策だ。現在、北米製EVの新車購入に際して最大7500ドル(約120万円)を補助(税額控除)する仕組みや、EV用充電器設置費用を補助する制度があり、トランプ氏が返り咲けば撤回される可能性がある。この結果、米国のEV市場が落ち込む可能性があるが、その恩恵を受けるとみられるのがハイブリッド車(HV)に強いトヨタ自動車だ。
米国のEV市場は23年に初めて100万台を超えたものの、24年に入ると伸び率が鈍化している。EV充電インフラが整っていないことに消費者の不安が強いことが原因とされている。EVに代わって市場が拡大しているのがHVだ。燃料コストを抑制できるHVの販売台数が昨年秋ごろからEVを上回っている。
中でもトヨタはHVのラインアップを豊富に抱えており、米国HV市場で6割近くを占めている。米国でEV販売を推進する政策が打ち切られた場合、HV市場がさらに拡大しトヨタの販売が伸びるのは確実だ。
GM、ホンダに逆風も
こうした状況に焦りの色を隠せないのが、EVの開発・製造に重点を置いているゼネラル・モーターズ(GM)や、40年までにHVを含む内燃機関からの撤退を表明し、北米でのEV関連に巨額の投資を決めたホンダだ。米国のEV市場が縮小すれば、計画の抜本的な見直しを余儀なくされる。
ただ、米国メディアによると、EV専業のテスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)がトランプ氏への全面的な支持を表明し、毎月4500万ドル(約71億円)を献金する予定だと報じている。このため「EV市場を極端に縮小させる政策は打ち出せないのではないか」との声もある。
(河村靖史・ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2024年8月6日号掲載
「EV終了」宣言 トランプ氏が表明 トヨタのHVに勝機=河村靖史