経済・企業 鉄道新時代

鉄道会社の“体質”がコロナ禍で変わった 定期外増収で業績回復 梅原淳

新型コロナウイルスの5類移行から1年、人の移動は回復してきている
新型コロナウイルスの5類移行から1年、人の移動は回復してきている

 JR旅客会社6社、大手私鉄14グループによる経営状況を占う2023年度(24年3月期)の決算が出そろった。昨年5月の新型コロナウイルス感染症の5類移行で行動制限が撤廃され、人々が市中に戻ってきた結果が反映されている。

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 各社の連結営業収益を22年度と比較すると、国際物流事業の低迷で減収となった西日本鉄道を除いて各社大幅な増収を達成した(上表参照。拡大はこちら)。連結営業損益も改善され、2329億円もの増益を記録したJR東海をはじめ、2045億円増益のJR東日本、957億円増益のJR西日本、163億円増益の阪急阪神ホールディングス(HD)と好決算が続く。JR北海道、JR四国は鉄道事業で設備の安全対策に投資した結果、営業損失が続いている。

 各社の決算をコロナ禍直前の19年度と比べた場合、連結営業収益、連結営業利益とも回復は道半ばといったところだ。連結営業収益はJR西日本など8社を除いて、連結営業損益はJR西日本など11社を除いてそれぞれコロナ禍直前の水準に戻っていない。なお、近鉄グループHDの大幅増収は22年7月に近鉄エクスプレスを子会社化したからだ。同様に大幅増収の阪急阪神HDは旅行事業が21年度に自治体からの自宅療養者の支援業務を大量に受注したためで、コロナ禍後も各セグメントが急速な回復を見せて好調さを維持した。

鉄道事業の中身が変容

 鉄道事業も連結決算と同様の推移を見せる。運賃収入を定期旅客と定期外旅客とに分け、23年度と19年度とで比べると興味深い結果が得られた。

 JR6社、大手私鉄15社を合わせた運賃収入は、19年度に定期旅客収入1兆2786億円(運賃収入に占める割合23.2%)、定期外旅客収入4兆2343億円(同76.8%)の計5兆5130億円であったところ、23年度には定期収入1兆1048億円(同20.8%)、定期外収入4兆2129億円(同79.2%)の計5兆3177億円となった。コロナ禍前と比較した23年度の運賃収入の減少率は全体で3.5%、定期収入は13.6%だが、定期外収入は0.5%にとどまる。

 19年度と23年度とでは定期収入は減少したが、定期外収入は、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、京阪電気鉄道、阪急電鉄、西日本鉄道の5社を除く大手私鉄9社では増えている。

 特に東急電鉄は759億円から895億円へと18.0%もの増加率を記録し、運賃収入に占める定期外収入の割合も53.9%から61.8%へと7.9ポイント増加した。大都市圏の大手私鉄は通勤、通学輸送が主体というイメージが強い中、大げさに言うと東急電鉄はコロナ禍の間に鉄道の中身が変わってしまったのだ(下図)。

 定期旅客の運賃収入の減少は、コロナ禍でのリモートワークが定着し、通勤定期の旅客が減ってしまったことが反映されている。通勤定期の場合、10キロメートル乗車の1カ月定期で考えると、割引率はJR6社が40%台後半から50%台前半、大手私鉄でも30%台後半から40%台前半と大きくなっている。このため、利益率という観点から見ると定期収入は分が悪い。一方で、定期外収入の増加はコロナ禍からの回復を目指す上で各社の追い風となった。

大胆なコスト削減加速

 JR各社、大手私鉄にとっても好ましい構造改革ながら、各社とも鉄道事業での大胆なコスト削減策を加速させている。JR東日本はみどりの窓口の削減を進め、残された窓口の混雑ぶりに削減が一時打ち切られ、閉鎖された窓口が復活したほどだ。さらに、駅のホームからJR東日本は時計、西武鉄道は時刻表のそれぞれ撤去を進めている。

 こうした背景にあるのは昨今の物価高の影響、そして固定費が営業費用全体の90%前後を占める鉄道事業の特異性だ。列車を間引いたところでコスト削減にはあまり結びつかないので、施設、車両から無駄と思われるものを省いていこうとの考えが透けて見える。加えて、コロナ禍で経営面に大きな打撃を受け、そのショックから立ち直れない上、「二度とコロナ禍前には戻らない」との悲観的な空気が鉄道業界を覆っている点も挙げておきたい。

 鉄道事業以外では、JR九州、大手私鉄各社が得意とする不動産事業が引き続き好調だ。JR東日本はJR東日本不動産を24年7月1日に設立し、不動産事業に本格的に参入することとなった。また、インバウンド客が戻ってきたこともあり、ホテル業の復調も目立つ。好調の一因は部屋単価の上昇もあるという。

 今後については、24年度の各社の業績予想は明暗が分かれた。連結営業収益はJR北海道を除いて増収が見込まれる中、連結営業損益が増益となるのはJR東海など10社と半数にとどまる。電力費、燃料費が高止まりとなり、人件費の高騰など不安な要素が多いからだ。別稿で述べるとおり、運賃制度の改正に伴う鉄道会社の経営体力の回復が期待される。

(梅原淳〈うめはら・じゅん〉鉄道ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年8月27日・9月3日合併号掲載

鉄道新時代 コロナ禍前に戻らない 定期外増収で業績回復=梅原淳

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