教養・歴史 書評

移住、分断、多様性……米国を知る格好の一冊 孫崎享

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 米国大統領選での共和党と民主党の対立は激しい。トランプ氏は共和党候補受諾の演説での締めくくりに「今こそ団結し、過去の違いを乗り越えなければならない。いかなる意見の相違も脇に置き、一つの国民、一つの国家とならねばらない」と述べた。つまり米国は分裂している。だがそれは建国以来の現象だ。

『地図が語る アメリカ合衆国の歴史』(ローリック・エヌトン著、地図製作/ピエール・ゲ、蔵持不三也訳、柊風舎、7150円)は、いかに米国が分裂した国家として成立してきたかを鮮明に示している。

 氷河時、移住してきた「先住民(インディアン)」にしても言語、民族、経済、政治、文化は驚くほどの多様性を持つ。移民にしても初期は東部において英国化したが、次第に民族、宗教、社会制度の異なるさまざまな欧州人が入ってくる。

 4年間かけて戦い、60万人以上の死者を出した南北戦争が終わったのはわずか160年前である。都市化の危機が1910年から、黒人の大量移住が16〜45年、60年からは公民権運動などの異議申し立てが激しく起こり、60年代末からはさらにその凋落(ちょうらく)と再編の動きがある。

 米国には安定した「統一」「調和」がほとんどない。本の帯に「アメリカンドリームを再構築できるのか?」とあるが「アメリカンドリーム」といっても流動的なもので、今また構造変革が起こっている。代表が「人口構成の変化」で、「白人キリスト教徒」の後退という現象だ。

 大統領選を見る際は、分断と変化の歴史を知っておくことが重要だ。

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 将棋ファンには、AI(人工知能)の思考が人間を超えていることは周知の事実。AIは一手を指すのに何億もの手を読める。こうした事実から「脳にAIを埋め込んだら何ができるか」という問いが生まれる。

 池谷裕二著『夢を叶えるために脳はある 「私という現象」、高校生と脳を語り尽くす』(講談社、2420円)はこの問…

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