インタビュー「銀行業を持てばお金の流れがシームレスになる」前田義晃・NTTドコモ社長
今年6月にNTTドコモの新社長に就任した前田義晃氏が、銀行業に参入する方針を明らかにした。その狙いを聞いた。(聞き手・撮影=石川温・ケータイジャーナリスト)
── NTTドコモとして銀行業参入を表明した。その狙いは?
■自分で手に入れないと得られないものがあることは事実。そういう意味では、(KDDI、ソフトバンクなど)競合他社はみんな自分で銀行業を持っている。他社で提供できるサービスが、うちでは提供できないとなると、競争としてすでに劣っていることになる。ユーザーに我々を選んでもらうためにも、この状態は解消したい。
── 競合他社に比べて、今のNTTドコモはどのあたりが「劣っている」と感じているのか。
■私自身も勉強のためにいろいろな銀行を使っている。お金があるところ(銀行)からの動線で、サービスやモノを使うということが結構ある。その流れがシームレスだと、ユーザーの使いやすさにつながっていく。
これが(NTTドコモのように)バラバラにやっていると、なかなかシームレスなお金の流れを作れない。私自身、(NTTドコモが今年1月に子会社化した)マネックス証券を使っているが、お金が別のところにあると流れが分かりにくい。ユーザーに対してお金の起点を分かりやすく提供するには、銀行があったほうがいい。
強みのエンタメを生かす
── 通信会社が銀行業を持つ具体的なメリットはどこにあるのか。
■ユーザーに通信料金を支払ってもらう際、自前で銀行を持っていたほうが手数料の面で有利であり、減らせたコスト分をユーザーへのポイント還元に回すことができる。また、ドコモユーザーに対してだけでなく、ドコモのスマートフォン決済「d払い」での支払いに対応してくれる加盟店に対しても、自前の銀行があれば支払い手数料を低廉化できる。さらに、こちらから支払う頻度を増やせるため、運転資金を安定して回せるようになる。
── 実際にNTTドコモが銀行業を始めるメドは立っているのか。
■検討はいろいろ進めているが、完全にメドが立っているわけではない。できるかぎり早くやりたいが、今年度内にでもメドがつけばいい、というぐらいの感覚だ。
── 携帯電話の契約数シェアが国内1位であるNTTドコモにとって「いかに他社へとユーザーに逃げられないようにするか」が重要になると思うが、今後はどうやって戦っていくのか。
■ずっとdポイント経済圏を広げてきて、会員数は1億人を超えるところまで来ているが、やはりNTTドコモの回線契約をしていないユーザーに、どれだけアクティブ(積極的)にdポイントを使ってもらうかが重要になる。
そこで、他社にはないNTTドコモの強みといえるのが、エンターテインメント分野だ。愛知県にある大規模な複合エンターテインメント施設「IGアリーナ」を運営するだけでなく、国立競技場の運営にも名乗りを上げた。Jリーグとは海外チームを招聘(しょうへい)した試合の主催も行っている。dポイントを主軸に、ファン層の拡大につなげられるようにしていきたい。
■人物略歴
まえだ・よしあき
1970年、北海道出身。94年北海道大学法学部卒業後、リクルート入社。2000年NTTドコモ入社。常務執行役員、副社長などを経て24年6月に社長就任。54歳。
週刊エコノミスト2024年9月17日号掲載
ネット銀行&ポイント経済圏 インタビュー 銀行参入の狙い 前田義晃 NTTドコモ社長