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経済・企業 EV最前線

最新エンジン車に試乗して分かった「EV失速」の本当の原因――優れたデザインで298万円、侮れない国産ガソリン車の競争力

長野県で八ヶ岳をバックに(マツダ3)
長野県で八ヶ岳をバックに(マツダ3)

 最近、巷で電気自動車(EV)の販売失速が伝えられる。メディアでも、「EVに舵を切った独フォルクスワーゲンが1937年の創業以来、初めて独工場の閉鎖を検討」「米大手フォードがEVの新機種の開発を中止」「スウェーデンのボルボが2030年までに販売車両をすべてEVにする計画を断念」などというニュースがヘッドラインを飾っている。破竹の勢いだったEV最大手のテスラも同様で、同社の世界販売台数は、2024年1~3月期に前年同期比8.5%減、同4~6月期は同4.8%減と2四半期連続で減少した。

 私は経済誌の記者として、この4年ほど、EVに関する特集を組む一方、様々なEVに試乗しその利便性を体感してきた。加速が良い、エンジンから発生する音や振動がなく静か、車載OSのアップデートで走行性能が向上する、走行中に温室効果ガスを一切排出しない、などが代表的なものだろう。また、個人でも軽自動車のEVを購入し、その走行性能、環境性能の高さに満足している。

EVの国内シェアはわずか1.5%

 だが、一般の消費者はそうでもないようだ。日本自動車販売協会連合会によると、日本国内におけるEVの販売は、2023年12月以降、今年6月まで前年同月割れが続いた。7月は、8カ月ぶりに前年を上回ったものの、8月は再び前年割れに転じた。8月単月のEVの販売シェアは前年同月に比べ0.2ポイント低下し、わずか1.5%に過ぎない。

 なぜ、EVは日本で受け入れられず、世界でも販売が失速しているのか。未だに消費者の支持が根強い内燃機関車の長所を再確認すれば、今のEVに足りないものが分かるのではないか。そこで、改めて、国産メーカーの代表的なエンジン車に乗り、その理由を肌で確かめることにした。

「マツダ3」のガソリン車を選ぶ

 協力を依頼したのは、マツダだ。同社は世界的に環境規制が厳しくなる中でも、新たに直列6気筒のディーゼルエンジンを開発するなど、内燃機関に強いこだわりを持つ。

側面はプレスラインのないフェンダーとドアパネルが特徴
側面はプレスラインのないフェンダーとドアパネルが特徴
マツダ3のリア部は「なで肩」
マツダ3のリア部は「なで肩」

 さらに、個人的な見解を話すと、デザインが素晴らしい。特に19年に発売されたマツダ3ファストバック(トランクと客室がつながっているハッチバック車)は、発売から5年たった今でも、街中で見かけると振り向いてしまうほどだ。

 このマツダ3ファストバックのガソリン車を拝借、週末、じっくりと運転してみた。

長野県や宮城県を巡る1100キロの旅程

 試乗は9月14日~16日の3日間。東京からまず、長野県の蓼科高原に向かい、一泊した後、そこから宮城県の仙台に向かい、宿泊、最終日に東京に戻るという1100キロメートル超の旅程だ。

 マツダ3ファストバックの仕様は以下の通りだ。全長4460ミリメートル、全幅1795ミリメートル、全高1440ミリメートル、ホイールベースは2725ミリメートル。車重は1380キログラム、最小回転半径は5.3メートルだ。ライバルは、トヨタのコンパクトカー、カローラなどになる。

 エンジンは排気量2000ccの自然吸気の直列4気筒で、最高出力は156馬力、最大トルクは199ニュートンメートル。これに、燃費とスタート時の出足改善のため、最大出力6.9馬力、最高トルク49ニュートンメートルのモーターが補助動力として搭載されている。このエンジンを6段の自動変速機(AT)で動かす。

 燃費はWLTCモードで、レギュラーガソリン1リットル当たり16.4キロメートル、ガソリンタンクの容量は51リットル。車両価格は298万4200円(消費税込み)だ。ごく普通の前輪駆動(FF)のガソリン車である。

思わず振り向くボディデザイン

宮城県塩釜神社の表参道にて(マツダ3)
宮城県塩釜神社の表参道にて(マツダ3)

 試乗したマツダ3ファストバックのボディカラーは「ジルコンサンドメタリック」という名称で、コーヒー牛乳をギュッと濃くしたような色だ。正面から見ると低いボンネットが特徴的だ。側面に回ると、前部からボディの後半にかけて、プレスラインのない滑らかなS字曲線が続く。光の当たり方によって、表情が変わり、とても、美しい。長いホイールベースにより、タイヤがボディの4隅に配置され、低い車高と相まって、踏ん張り感があり、スポーティーだ。

 リアは独特な形をしている。なで肩のような不思議な造形で、後席の窓が後ろになるに連れ、狭まっているので、4ドアのハッチバックなのに、まるで、2ドアのクーペのように見える。

優秀なペダル配置に感心

 マツダ3に乗り込み、まず、感心したのはドライビングポジションがしっかりと取れることだ。シートに腰をしっかりと沈め、ハンドルを握ると、右足のアクセルペダルと左足のフットレストが、ドライバーの体を中心に左右対称に配置されていることが分かる。足を自然に伸ばしたところに、アクセルとフットレストがある。ブレーキの位置はちょうど、その真ん中だ。

運転席はしっかり腰を沈めて座るタイプ。1000㌔を超える運転でも腰痛は出なかった
運転席はしっかり腰を沈めて座るタイプ。1000㌔を超える運転でも腰痛は出なかった
ペダル配置は優秀だ
ペダル配置は優秀だ

 実は、EVは床下に大型のバッテリーを敷いており、その厚さのため、床の高さがエンジン車より高い。その結果、座面と床の間隔が不足し、しっくりとしたドライビングポジションが取れないことが多い。

後席もしっかりと座れる

 後席ではその影響はより顕著で、特に前後の座面が短いEVだと、膝裏が浮いたり、足を投げ出すような格好になる。前席の下に足を入れるスペースがない車もある。これは長時間の移動ではつらい。マツダ3の後席は、小さな窓の影響でやや閉塞感があるが、座面と床の距離がしっかり確保され、足もくるぶしまで前席の下に問題なく収めることができた。

後席の乗り心地は高速でも悪くなかった
後席の乗り心地は高速でも悪くなかった

 もっとも、エンジン車でもドライビングポジションが酷い車がある。後席のスペース効率を優先したある国産コンパクトカーは、前席を前に寄せすぎたため、アクセルペダルが右側のタイヤハウスに押し出され、ブレーキ側に偏って配置されている。これは、踏み間違えを誘発する。高齢者によるアクセルの踏み間違えの事故が多発する中、これは、大きな問題だ。

物理ボタンの多さはEVと比べた長所

マツダ3のダッシュボードは直線基調
マツダ3のダッシュボードは直線基調

 ダッシュボードは直線を基調としたデザインで、すっきりしている。そして、エアコンとオーディオ、ナビは物理ボタンとダイヤルで操作する。これも大変、重要なポイントだ。最近のEVはいずれも、ボタンをなくし、あらゆる機能を液晶画面で操作する方向だ。これは、部品点数を減らし、ソフトウエアによる機能のアップデートを容易にするために、世界の自動車メーカーがこぞって採用している潮流だ。しかし、ドライバーからすると、運転中に液晶画面を見ながら操作するのは、わき見運転につながり、危険極まりない。実際、欧州の車両安全評価機関のユーロNCAPは、エアコンやオーディオなどのスイッチは「物理ボタンに戻すべき」と提言している。

車重の軽さを実感

 それでは、マツダ3の実際の運転フィールはどうなのか。まず、EVに比べた車体の軽さが実感できる。試乗したガソリンモデルは1380キログラムで出足は軽快だ。巨大なバッテリーを搭載するEVは、重さが2トンを超える車種も少なくない。道路に負担を掛けたり、機械式の駐車場を使えなかったりする。これは明らかに、現代のEVの欠点の一つだ。

 走り出すと、ボディの剛性感は高く、一言で示すと、ドイツ車風である。乗り心地は硬めで、高速になるほど、どっしりとした安定感が目立ってくる。高速域での直進安定性は優秀だ。サスペンションは大きな段差をうまく吸収し、乗り心地は悪くない。

 2000ccのエンジンの動力性能はやや平凡な印象だが、軽い車重と出来の良いATのおかげで、街中や低中速域では過不足なく走る。

高速ではパンチに欠けるエンジン

2000ccエンジンは高速ではややパンチ不足
2000ccエンジンは高速ではややパンチ不足

 ただ、高速に入ると、EVに比べた物足りなさを感じた。EVはその特性上、アクセルを踏み込んだ瞬間から最大トルクを発生する。日本の交通法規内(最高速度120キロメートル)で走る限りは、アクセルを踏めば、どの速度からでも思い通りに加速することができる。

 マツダ3でフラストレーションが溜まった場面を描写したい。今回、仙台から東京への帰路に走った常磐道。宮城県の山元ICから福島県の広野ICまで128キロメートルに渡り、片側1車線の区間が続く。その間、時折、長さ1キロメートルほどの2車線区間が現れ、追い越しが可能となる。

 前を走るバスやトラックを追い抜くため、マツダ3の変速機のギアを6速から5速、4速に落とし加速を試みるが、エンジンはうなりをあげるものの、期待したほどには加速してくれない。アクセルを踏む込む量と加速が一致しないのだ。

 これはEVに乗り慣れているせいもあるだろう。EVが普及すればするほど、エンジン車は、EVの太いトルク、強い加速との比較に晒される。

燃費は1リットル=13.7キロ、航続距離は700キロ

 とはいえ、高速の追い越し時のトルク不足を除けば、マツダ3は、東京、山梨、長野、福島、宮城を巡る3日間、1116キロメートルの行程をストレスなく走り切った。

1116㌔の行程で給油は2回のみ(那須高原SA)
1116㌔の行程で給油は2回のみ(那須高原SA)
マツダ3はレギュラーガソリン仕様
マツダ3はレギュラーガソリン仕様

 全行程での平均燃費は1リットル=13.7キロメートル。ガソリンタンクの容量は51リットルだから、航続距離は699キロメートルとなる。軽い車重も燃費には効いているだろう。給油は、往路の東北道の那須高原SA(サービスエリア)と宮城県塩釜市内のガソリンスタンドの2回のみ。EVなら、4~5回は充電が必要だったはずだから、エネルギー補給の手間が少ないことはやはり、EVに対する大きなアドバンテージだ。

 内装もクラスの平均を大きく上回る仕上がりだ。茶と黒の2色の合成皮革からなるシート、スエード調の柔らかい素材が張られたダッシュボードはところどころに茶色のステッチがあしらわれており、デザイナーのセンスの良さを感じさせる。

EVに比べて依然、高い価格競争力

 このデザインと走行性能の車が298万円で買えるのは、やはり、エンジン車のメリットと言わざるを得ない。EVでマツダ3と車格が同等の日産リーフの場合、車載電池が60キロワット時、航続距離がWLTCモードで450キロメートルのモデル「e+G」で、583万円もするのだ。EVは高価なバッテリーにコストがかかる分、高い値段の割に内装が平凡なことも多い。

「日本三景」宮城県松島の港にて(マツダ3)
「日本三景」宮城県松島の港にて(マツダ3)

 さて、結論に移りたい。エンジン車を長距離運転してみて、改めて、その実用的な走行性能、エアコンやオーディオの操作のしやすさ、給油の手軽さ、現実的な価格設定を実感した。日本人の平均年収が21年で443万円と30年前(1991年の446万円)からほぼ変わっていないことを考慮すると、今あえて割高なEVを購入する動機は薄いかもしれない。

 一方で、加速性能、静粛性、そして、走行中の環境性能はEVにかなわないことも再確認できた。環境規制が高まる中、EVの価格低下が進めば、徐々にエンジン車のシェアは侵蝕されるだろう。

エンジン車の生きる道は「感性」の追求

 それでは、エンジン車が生き残る道はどこにあるのか。それは、「人間の感性に訴えた心地よさ」になるのではないか。

 私は、車のエンジン音は、人間の「鼓動」に相当すると考える。人がエンジンに愛着を憶えるのは、理性を超えた本能から来る感情なのだろう。韓国ヒョンデが今年に入り、あえて「エンジン音、排気音」がするEVを発売したのも、そうした消費者のニーズを取り入れた事例だ。

 EV人気が一旦、下火になったことで、エンジン車の寿命は想定より長くなる可能性が出てきた。環境性能に優れたうえで、人の感性に訴えるエンジンづくりに力を入れるメーカーも再び、登場するのではないか。

 ちなみに、マツダ3には、ガソリンとディーゼルエンジンの長所を組み合わせた「スカイアクティブX」という新型エンジンの搭載車もある。私が理想とする、「中低速域で適度なトルクがあり、高速での加速も不満なく、高回転まできれいにふけ上がり、官能的な排気音がする」エンジンに近いかもしれない。もし、試乗の機会を得たら、別途、報告したい。

(稲留正英・編集部)

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