経済・企業 EV最前線

アウディが北海道で風力発電を訪ねるプレスツアー②地元討論会で送電網と小型風力の課題浮上、EV普及の是非で活発な議論も

アウディ未来共創ミーティングの参加者(旭川市民活動交流センター)
アウディ未来共創ミーティングの参加者(旭川市民活動交流センター)

 再生可能エネルギーを巡り、アウディ・ジャパンが北海道で9月10~11日に開催したプレスツアー「アウディ・サステナブル・フューチャー・ツアー」は2日目、「未来共創ミーティング」と題して、地元の有識者とパネルディスカッションを開催した。

 会場は旧国鉄のレンガ造りの工場を改装した旭川市民活動交流センター。主催者のフォルクスワーゲングループジャパン社長兼アウディ・ジャパンブランドディレクターのマティアス・シェーパース氏のほか、地元からNPO法人北海道グリーンファンド理事長で一般社団法人北海道再生可能エネルギー振興機構理事長の鈴木亨氏、北星学園大学経済学部経済学科専任講師の藤井康平氏と同大学と大学院課程の学生5人の計8人が参加した。

VWグループの急速充電器網は日本最大の400カ所超

アウディジャパンブランドディレクターのマティアス・シェーパース氏
アウディジャパンブランドディレクターのマティアス・シェーパース氏

 シェーパース氏は、日本は電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合を2021年の22%から30年に36~38%に引き上げる予定だが、その中で風力発電は23年の1%から11%に増やす計画で日本の潜在風力資源の半分を占める北海道の役割が重要であると指摘。アウディ・ジャパンでは販売車両の電動化を進めており、アウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェの日本国内のフォルクスワーゲングループの店舗に設置している出力90~150キロワットの急速充電器の数は年内には400を超え、チャデモ方式としては国内最大になると説明した。

 次に、北海道再生可能エネルギー振興機構理事長の鈴木亨氏が登壇した。同機構は道内で再エネの導入を進めるため、北海道の179自治体のうち60自治体が加盟し、政策提言、調査、コンサルティングなどの各種活動をしている。

北海道には未接続の風力が1000万キロワット以上

北海道再生可能エネルギー振興機構理事長の鈴木亨氏
北海道再生可能エネルギー振興機構理事長の鈴木亨氏

 鈴木氏は、まず、北海道の風力発電の現状について説明。日本全体では、23年末に570万キロワットの風力発電が稼働済みなのに対し、北海道は今年5月末の時点で、系統電力に接続済みが123万キロワット、接続契約申込済みが135万キロワットあるほか、接続を申し込んでいるが、まだ許可を得られていない「接続検討申込」の風力発電が917万キロワットあるという。

 その背景として、①北海道の人口は約500万人で、風力の発電容量に比べ、電力の消費量が少なく、そのまま送電網につなぐと需給バランスが崩れる②北海道と大口消費地の本州との間の送電網が不足している――ことを挙げた。

遅れる北海道と本州間の送電線の整備

 この問題を解消するために、①青函トンネル内に容量30万キロワットの送電線「新々北本(きたほん)連携設備」を敷き、北海道と本州間の連携線の容量を現在の90万キロワットから120万キロワットに増やす②道内の後志(しりべし)地方から秋田県を経由し、新潟県まで200万キロワットの海底送電線を整備する――計画が決まっているという。②は新潟からは柏崎刈谷原子力発電所の50万ボルトの送電網を使い、首都圏に電力を供給する。

 しかし、①の完成時期は2027年度、②は当初、2030年度が完成目標だったが、送電線の安全対策など技術的な課題が浮上し、最大で4年ほど完成が遅れる見通しで、これが、道内の風力発電拡大の支障になっていると説明した。

新たに160万キロワットの蓄電施設の計画

 このほか、道内における電力需給のバランスを保つため、新たに160万キロワット時の蓄電池の設置計画があるという。前日10日に見学した北豊富変電所の蓄電池の容量は、720メガワット(72万キロワット)時だから、その二つ分に相当する。「変電所の近くに蓄電池を置いて、再エネの電気を余った時に充電し、不足した時に放電するビジネスはこれから増えていく」(鈴木氏)。

北海道で無秩序な小型風力の建設ラッシュ

北星学園大学経済学部専任講師の藤井康平氏
北星学園大学経済学部専任講師の藤井康平氏

 北星学園大学の藤井氏は、環境経済学と環境政策論を研究していると自己紹介。そのあと、北海道で小型風力発電が引き起こしている問題を説明した。小型風力は出力20キロワット以下の発電装置を示す。12年7月に日本で再エネの固定価格買い取り制度(FIT)が始まったとき、小型風力の買い取り価格は1キロワット時=55円と大型風力の2倍以上に設定された。投資利回りが年10%と高く、設置の際の環境アセスメントも不要だったため、道外や外国資本による無秩序な建設ラッシュが発生した。

道外資本の運営が8割、地元にお金は落ちず

「道外事業者による運営が8割を占める」(藤井氏)。小型の風力発電はエネルギーの「地産地消」がメリットなのに、地元にはお金は落ちない。さらに、寿命に達した発電装置の処分について法律に明記されていないため、FITの期限が到来した20年後に、地元の自治体が税金で老朽施設の処分を迫られる恐れがあるという。

オーストリアの再エネ開発が問題解決の参考に

 藤井氏はその解決策の一つとして、欧州オーストリアの事例を紹介。同国は、総発電量の87%がバイオマスや水力などの再エネ由来で、運営は地域の自治体が主体という。「中央集権型の日本に対し、オーストリアは地方分権と政治制度が違うため、そのままやり方を取り入れるのは難しいかもしれない。しかし、北海道と面積はほぼ同じで、気候も自然環境もよく似ている。地域に利益をもたらす再エネのあり方は学べるのではないか」と語った。

北星学園大の学生、地元の資源で地元を活性化するプロジェクト

北星学園大学の古木秀馬さん
北星学園大学の古木秀馬さん
北星学園大学の古草凌雅さん
北星学園大学の古草凌雅さん

 最後は、藤井ゼミに所属する5人の学生によるプレゼンテーションがあった。3年生の古木秀馬さんと古草凌雅さんは、農業体験や農作物販売を通じ、若者と農家を結びつける活動のほか、ナッジ理論を使った古着回収活動の二つのプロジェクトを展開していると説明。4年生の村田雅寛さんと友兼蛍さんは、海洋ごみをアートにするアップサイクル活動と規格外野菜のリサイクル活動について報告した。村田さんは北海道の最年少猟師でもあり、農作物被害を防ぐため駆除したエゾ鹿のジビエ肉の活用にも取り組む。

海洋ごみを自動回収する「シーリン」

左から北星学園大学の友兼蛍さん、村田雅寛さん
左から北星学園大学の友兼蛍さん、村田雅寛さん

 大学院課程の土生美咲さんは、海洋ごみ問題を研究しており、海上に浮遊しているごみを自動で回収する装置「シーリン」を開発したことを報告した。

 藤井氏は、「学生たちの取り組みは一見、バラバラに見える。だが、地域にある資源を使って、いかに地域を良くしていくかという点で、全部つながっている。再エネも地域にある資源を地域に活性化につなげるということで一緒だ」と強調。「北海道は少子高齢化が進んでいて、将来の日本の縮図と言われる。こういう取り組みを若い人にどんどんしてもらい、北海道を盛り上げていきたい」と抱負を語った。

北海道の低いEV普及率で活発な議論

北星学園大学大学院の土生美咲さん
北星学園大学大学院の土生美咲さん

 パネルディスカッションでは、電気自動車(EV)普及の是非についても活発な意見が交わされた。北海道のEV普及率が全国最下位であることについて、藤井氏は、「EVを普及させる制度を導入すると、それに付随して技術革新が起こり、広まっていく。そこまで悲観はしていない」とした一方で、「強制的な制度は諸刃の剣。長期的に見ればEVは社会的な便益が大きいことを、国や自治体が消費者に丁寧に説明していくことが大事」とした。

 鈴木氏は寒冷地におけるEVの蓄電池の性能低下への不安を語る一方、「動く蓄電池」との観点から再エネの受け皿としてのEVに期待を寄せた。学生からは、「ナッジ理論を活用し、風況の良い地域でEVを使った町おこしをしたらどうか」(古木さん)、「重量が重いEVは雪道の走行が不安。吹雪の時に蓄電池がもつのか心配」(土生さん)などの意見や指摘があった。

 シェーパース氏は、「日本でアウディが発売しているEVには手頃に買える四輪駆動車がまだないのが課題」としたほか、「寒冷地で蓄電池の効率が落ちるのは事実だが、ノルウェーは新車の6~8割がEV。寒冷地でもそれなりのやり方がある。日本でもEV普及へまだまだたくさんやることがある」と締めくくった。最終回である次回は、ツアーで訪問したサロベツ原野などについて報告したい。

(稲留正英・編集部)

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