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教養・歴史 書評

研究論文でも取材ルポでもなく、愛ゆえに裏側を書く一冊 ブレイディみかこ

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『イランの地下世界』(若宮總著、角川新書、1056円)を一気読みしてしまった。

 わたしは英国在住だが、親友と呼べる人はイラン出身で、彼女から漏れ聞くイランは表層的イメージとはずいぶん違うことを知っていたからだ。それは友人自身にも言えることで、元同僚であり、共に無料託児所を運営したこともある彼女は、厳格でしっかりとした貧困支援活動家なのだが、その一方で、真面目にルールを守っているふりをして全くそうでないことがある(掟(おきて)破りをしながら飄々(ひょうひょう)とウインクしている感じ)。

 法律は破ってナンボみたいな感覚があるとか、禁酒国のくせにみんな飲んでるとか、ナンパのハードルが低いとか、友人から聞いた通りのイランの実情が本書には書かれていて、随所で笑った。イスラム体制の権威主義国家のはずなのに、巷(ちまた)ではアナーキーな世界が展開されていて、なんかこう、憎めない人たちなのだ。ホントよく喋(しゃべ)るしね(彼らと同じエネルギーを会話することに注げるのは、日本人では明石家さんまと上沼恵美子ぐらいだろうという著者の指摘が非常に秀逸だった)。

 2022年の反体制デモ以降、女性たちはスカーフを脱ぎ始めているが、他方では、出世のためにチャドル(一枚の布で全身をすっぽり覆うタイプのベール)をわざと着用する女性たちもいるという。信仰心のあるふりをしてベールを着用し礼拝に励めば点数が稼げることに味をしめた少女たちが、社会に出ても「チャドル女性」になるケースがあるらしい。会社が彼女たちを出世させないと、「幹部が礼拝や断食をしていない」などと当局にチクって、会社を取り潰しにさせる場合すらあるそうで、「イスラム・ヤクザ」として恐れられているという。こうしたバッドさも含めた女性の逞(たくま)しさもイランの知られざる一面であるように思う。

 学者のように書物からひもとくのではなく、ジャーナリス…

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