経済・企業 インタビュー
米モデルナ幹部インタビュー「海外ではコロナとインフルエンザワクチンの同時接種を奨励――日本の低いコロナワクチン接種率を懸念」
来日中の米モデルナ社チーフ・メディカルアフェアーズ・オフィサー(CMAO)のフランチェスカ・セディア氏が11月12日、週刊エコノミストの単独インタビューに応じた。同氏に世界各地での新型コロナウイルスの感染やワクチン接種の状況、新製品開発の進捗について話を聞いた。(聞き手=稲留正英・編集部)
―― 各地における新型コロナの感染やワクチン接種の状況はどうか。
■いくつかの国ではコロナの感染率は上昇している。例えばドイツだ。そうした中、新たな変異株に対応した最新のコロナワクチンは、日本も含め各地の当局に承認され、世界で入手可能だ。そして、多くの国で接種を奨励している。米国では、米疾病対策センター(CDC)がコロナとインフルエンザのワクチンを同時に接種する価値を認識し、それゆえ、インフルエンザのワクチンに合わせるように、コロナワクチンの承認を加速している。米国では(毎年の流行が始まる)早い時期での接種の需要は非常に強く、かなりの割合の人々が、コロナとインフルエンザのワクチンを同時に受けている。
ワクチン接種で後塵を拝する日本
―― 日本はどうか。
■残念ながら、日本は違う。コロナワクチンの接種では米国や欧州など他の国々の後塵を拝している。日本は65歳以上の高齢者人口が多いが、これらの人々は若者や成人層に比べて、免疫システムが脆弱であり、かつ、糖尿病など複数の疾病を抱えている。コロナに罹患すると症状は重篤になる可能性がある。
―― 入院などが必要になるのか。
■それだけではない。コロナに罹った人は糖尿病のリスクが高まる。脳卒中のような心血管系の疾患のリスクも50%くらい高まる。また、脳に霧がかかったような倦怠感が月や年単位で続き、日常生活にも支障をきたしてしまうこともありうる。これは、「Long Covid」と言われているものだ。
不幸なことに、これは高齢者だけでなく、勤労世代にも作用する。一度、コロナに罹ると、仕事に復帰しても、以前のような能力が発揮できなくなる可能性がある。コロナはまだ、現実に存在する脅威であり、ピークシーズンの到来前に、ワクチンを接種する必要がある。
―― 日本のワクチン接種の状況は。
■1年前より低いように見える。米国などのほかの国と比べると、心配する必要があるほどだ。ワクチンを巡る誤った情報が流布しているのも一因だ。それゆえ、医師などの医療従事者が、正しい情報を人々に伝える必要がある。
混合ワクチンに大きな期待
―― 新製品の開発状況は。
■mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの良い点は、体内で必要な時にたんぱく質を生成できることだ。感染症や特定のタイプのがんに対して、抗体を作ることができる。当社は広範なパイプライン(開発中の製品群)を持っている。特に呼吸器系の製品ポートフォリオの開発は非常に活発だ。なぜなら、呼吸器系のウイルスは感染がすぐに拡大するからだ。RSウイルス(気管支炎や肺炎などを起こす呼吸器系のウイルスで乳児や高齢者の重症化リスクが高い)では、今年5月に日本の厚生労働省に製造販売の承認申請をし、来年には承認が得られることを期待している。
同様に、大きく期待しているのが、インフルエンザとコロナの混合ワクチンだ。すでに第3相の臨床試験(有効性と安全性を確認する最終段階の試験)をしているが、コロナとインフルエンザそれぞれにおける抗体反応は、既存の単体ワクチンよりも優れている。1回の接種で済むため、医師や患者の負担は減る。また、コロナワクチンの接種率向上にも寄与すると確信している。日本で申請するのは来年のどこかの時点なので、26年から27年の間に当局の承認が得られればと思う。
ノロウイルスワクチンは第3相試験の段階に
―― それ以外の製品は。
■ウイルスが長期間に渡って体内に潜伏する潜伏性ウイルスに対しても開発は活発だ。サイトメガロウイルス(CMV:新生児に小頭症、脳性まひなどの深刻な症状をもたらす)では第3相試験の段階にあり、日本を含めて薬事申請について当局と話し合っている。それから、吐き気、下痢などを通じ幼児や高齢者に重篤な症状をもたらすノロウイルスのワクチンも開発している。これは、当社以外では開発しているところはない。
また、希少疾患ではプロピオン酸血症(PA)、メチルマロン酸血症(MMA)の治療薬を開発している。これらの病気は、新生児に吐き気だけでなく、精神障害などを引き起こす。
―― がんも開発が期待されている分野だ。
■この分野はメルク社と個別化ネオアンチゲン療法(INT)で協業しており、上皮がんなどで第3相の試験をしている。また、がんの免疫療法では、(患者自身の免疫細胞〈T細胞〉を改変してがん細胞を攻撃させる)CAR-T(キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞)療法が有名だが、当社は米カリスマ・セラピューティクス社と、T細胞の代わりに、マクロファージ(免疫系を担う白血球の一種で、病原体を食べる)を使うCAR-M療法の開発で初期段階にある。この治療方法は、T細胞では難しい固形の腫瘍にも適用できる。これは早期のがんで有効だ。mRNA技術のスピードと効能の高さにより、当社は今後3~4年の間に製品ポートフォリオを倍に増やすことを目指している。