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患者はどうつき合う? 医者の本音とリアル 松永正訓

『開業医の正体』の著書もある松永正訓氏
『開業医の正体』の著書もある松永正訓氏

 

 医者は患者や患者家族に対してどう思っているのだろう。診察中に何を考えているのか。正直、儲かるの? そんな疑問に『開業医の正体』の著者である松永正訓氏が、包み隠さずに本音で答える。医者とのつき合い方、そしていい医者を見つけるヒントがここに。

◇医者とのつき合い方

 Q かかりつけ医を持つべきといいますが、どうやって見つければいいですか。

 A 子どものためにかかりつけ医を見つけたあるお母さまが、こう言っていました。「近所の小児科医をすべて回って、一番いいと思うところに決めました」。いわゆる、ドクターショッピングです。病気にかかってから、診療してもらう病院を頻繁に変えるようなドクターショッピングには問題点があるのも事実です。でも、自分の体を長期にわたり見続けてもらうかかりつけ医を見つけるためには、ドクターショッピングも一つの手段といえるでしょう。

 その際に、役立つ情報をお伝えします。例えば「内科/胃腸科/小児科」と掲げているクリニックがあるとします。その場合、この医者の専門領域は成人の内科です。つまり、一番初めに掲げてあるものが本来の専門なのです。日本の法律では、医者は何科を標榜(ひょうぼう)してもいいとなっています。ですから、この医者は開業医になって日々診療を走らせながら、小児医療の分野を学んできたということです。

 Q 良いかかりつけ医かどうか、見わける方法はありますか。

 A 最近は、患者さんの医療情報を書き込むためにパソコンだけを見ていて、患者さんの顔を一度も見ない医者もいるといいます。そういった医者とは、やはり信頼関係は築きづらいでしょう。患者さんと医者の関係で、最も大切なのは相互理解を深めるためのコミュニケーションだからです。

 私は患者さん家族と何年もつき合ううちに、自分の仕事は医療だけではないとわかってきました。家族にはさまざまな形があり、そしてさまざまな悩みがあります。体罰になりかねないしつけの問題、不登校など、僕から答えをもらいたいと言われることもあるので、そうした家族には時間を使って正面から向き合います。待合室が混んでいるときは、後日ゆっくり話そうと別の日に来てもらうこともあります。かかりつけ医は家族の悩みに答えなくてはならないということを、何年もかかって学んだのです。家族を支えるというのは小児科に限らず、大人のクリニックでも大事なことでしょう。そうやって地域にしっかり根をおろしている医者は、適任だと思います。逆に言えば、単に診察だけしている医者は、かかりつけ医として決して良いとは言えないということです。

◇医者と薬

 Q いつも行くクリニックが休みでした。常用している薬が切れてしまったので、薬だけもらいに他の医院に行ってもいいですか?

 A 私のクリニックにアレルギー性鼻炎の患者さんがいらっしゃいました。その人は、「いつもA薬を飲んでいるから、それを出してください。長年、かかりつけ医と試行錯誤しながらようやく辿(たど)り着いた薬なので、それでなければダメなんです」と言います。抗ヒスタミン剤には多くの薬があり、僕のクリニックで処方しているのはB薬でした。なぜ各製薬メーカーが競い合って抗ヒスタミン剤を出しているかといえば、逆に決定的に優れたものがないからなのです。

 僕のクリニックでは電子カルテを使っているので、普段、処方していない薬を出すには、サーバーの奥にある巨大な薬品箱にアクセスし、手続きしなければなりません。その作業は、実はかなりの手間がかかります。特殊な薬ではない限り、頼めばその薬を出してくれると患者さんは思うかもしれませんが、それは誤解です。あらゆる薬を用意しているクリニックはないですし、それは大学病院も同じで、驚くほどポピュラーな薬がないこともあります。そういったさまざまな理由で、初めて来た患者さんに「〇〇の薬をください」と言われたら正直、萎えます。クリニックは、ドラッグストアではないのです。医者が診察をする場所なのです。

 Q 風邪に抗生物質は効かないと聞きますが、この前、風邪で病院に行ったら、先生から抗生物質を処方されて、飲むべきか迷いました。

 A 最近はさすがに減りましたが、「抗生剤を処方してください」と言う患者さんや家族の方がまだいるのも事実です。2014年の東北大学の調査では、日本人の約半数が「風邪に抗生剤は無効」と知っているそうです。でも逆に言えば、半数はまだ知らないということになります。

 抗生剤は風邪に効かないだけでなく、害すらあります。抗生剤を飲むと、体内に耐性菌が増えます。それにより、従来の抗菌薬が効かない変異した菌が生まれてしまうのです。こういった抗生剤乱用による耐性菌の増加はいま、世界的に問題になっています。

 では、なぜいまだに風邪に抗生剤を出すのでしょうか。抗生剤を歓迎する患者さんがいることも事実です。僕も、一部の患者さんは薬をたくさん出すほうが喜ぶ傾向にあるように感じます。また医者の側からいうと、薬を多く出すとあたかも熱心に、ベストを尽くしたように見えることから、それを実践する人もいます。

 ただそれ以上の問題は、患者さんとのコミュニケーションを抗生剤を出すことで省略している医者がいることです。「風邪で抗生物質を出してほしい」と望む患者さんに、いかに抗生剤が不要かを説明するのは、時間もかかるし、骨も折れる作業です。でも本来は、それが医者の使命なのです。

 Q 薬を出せば出すほど、医者は儲(もう)かるんですか?

 A 昭和の医療には「薬漬け」という言葉がありました。当時の診療所は院内に薬局を併設しているところが多く、「薬価差益」といって、薬の仕入れ価格と、処方したときの公定価格の差で儲けようとしていたのです。処方すればするほど儲かる仕組みです。

 でも現在は、医薬も分業が進み、院内処方よりも院外処方のほうが医療報酬が高いので、新規に開業するクリニックで院内薬局を併設するところはかなり減っています。さらに医者が薬をたくさん出すのを抑えるために、いまは薬を7種類以上出すと診療報酬を減額される、つまりたくさん出すと損になります。だから近年は、不要な薬をむやみに出す医者はかなり減っているはずです。

 Q 検査を病院に勧められたら、やるべきですか。不要な検査はありますか。

 A 薬漬けはなくなりましたが、無駄な検査はまだあるのではないかと思っています。例えば子どもが離乳食を始める前に、血液検査で食物アレルギーの有無を調べる必要があると思っているお母さまがいます。これは、基本的に間違いです。血液検査をしても食物アレルギーの予測はつかないからです。こうした検査を積極的にやっている医者もいると聞きますが、正直、問題があると言わざるを得ません。子どもにとって採血は怖いし、痛いもの。しかも医療費も高額で、本当に意味のない検査の代表です。

◇大学病院と一般病院と開業医の違い

 Q それぞれの医療機関により、医者はどう違うのか、改めて教えてください。

 A 医者は大きく、大学病院と一般病院と開業医という三つにわけられます。大学病院は、研究と臨床と教育の場です。論文の読み方を学び、学会に参加して、夜になると研究棟で実験もしますし、若い医者や医学生、看護学生に授業もします。手術前と手術後には症例検討会をきっちりやって、手術の良かった点や悪かった点を徹底的にディスカッションします。それは、さながら道場のような雰囲気です。ただ、大学病院では難易度の高い手術を執刀するのはベテランの医者が中心ですので、その地位に上り詰めるまでメジャーな手術はなかなか回ってきません。

 それに対して、一般病院はとにかく臨床、臨床の毎日です。僕が千葉大病院から、32歳で沼津市立病院へ出向したときは小児外科医は僕1人だったので、年間およそ200人の子どもの手術をしました。とにかく手術がたくさんできたので経験も積みましたし、なにより自分の手で患者さんの命を救っているという実感がありました。

 開業医も同じく臨床の日々ですが、朝から夕方まで基本的にはずっと椅子に座って患者さんの診療を続けます。開業医の仕事の一つは病気がまだあまり進行していないうちに見抜いて大きな病院へ紹介することで、難しい病気の治療を自分で行うことではありません。僕のクリニックでは1日で最高150人ほど診(み)たこともありました。そういう時は、それこそ分刻みで診療することになります。

 Q 若い先生とベテランの先生、どっちがいいですか。

 A 医者は初期研修医、後期研修医を終えたあと、専門医試験を受けることができます。小児科専門医は、早ければ卒後6年で取得できます。しかし、もちろんその6年目で一人前とは言えません。内科系であれば初期研修医が終わってから最低10年は必要でしょう。外科医は手術数とともに成長するので、それより長く、15年以上の経験が欠かせないと思います。若手の医者が開業するとクリニックには最新設備もあり、ピカピカと光り輝いているかもしれませんが、経験が十分かといえば、そうではありません。内科医は年齢とともに生きるうえでの知恵や人間力が増していきますが、外科医のピークは60歳くらいでしょうか。ベテランの医者の中には、若い頃の馬力がすでになくなっているような人もいます。もちろん例外もありますので、そのあたりを患者さんが見極める必要があるといえるでしょう。

 Q 開業医になるのはどんな人ですか?

 A 大学病院や一般病院である一定のレベルまで到達するまでは、開業医になることはできません。つまり開業医は、ベテランの医者がやる仕事なのです。ものすごく若い開業医も稀(まれ)に存在しますが、その実力はあまり信用できないと言っていいでしょう。それだけ、開業医というのは独立するまでの自分の経験と知恵を売り物にしている仕事といえます。2006年の厚生労働省の資料では、全国の勤務医の平均年齢は43・4歳、開業医は59・4歳と報告されています。2020年のデータだと、開業医の平均年齢は60・2歳とさらに上がっていました。

◇医者とお金

 Q 開業するのに、どれくらいお金がかかるんですか。

 A 一般には1億円前後かかるともいわれています。僕が開業したのは44歳の時ですが、開業を決意したときの貯金はわずか200万円ほどでした。とはいえ、自己資金も担保もなくても、きちんとお金を貸してくれる人がいます。おまけにコンサルタントのように、開業までのステップをすべて支え、導いてくれます。僕がクリニックの経営をきちんとできれば、貸したお金に加えて利息が回収できるのですから、お互いウィンウィンの関係というわけです。

 僕の場合はコピー機で有名なR社の営業の青年が、当時僕が勤務していた大学病院にまで来て、いろいろと説明してくれました。その青年からは、「先生が希望の土地を選んで、地主である大家さんにクリニックを建ててもらう。そして先生が大家さんに家賃を払って診療する、〝建て貸し〟という方法もありますよ」と教わりました。

 よくビルの一角のテナントにクリニックを持つ医者がいますが、それを「ビル診」と言います。建て貸しはビル診より少し出費は多いけれど、自分で土地を買ってクリニックを建てるよりは、はるかに価格は安い。

 土地探しには紆余(うよ)曲折ありましたが、僕の自宅から車で約20分のところに遊んでいる広い土地があって、地主さんにお願いして無事、クリニックを建てることができました。そしておかげさまで開業から半年後には、行列のできるクリニックになり、借金は繰り上げ返済で返すことができました。自分でクリニックを開業して潰れたという話は例外的にしか聞いたことがありませんので、高い確率で儲けは出る職業といえます。

 Q 勤務医と開業医、どっちが儲かるの?

 A やはり2006年の厚労省の資料によると、病院勤務医の年収は1479万円、個人開業医の年収は2458万円です。ちなみに最近は、アルバイトだけで生計を立てるフリーランスも増えてきました。医者の時給は高く、1時間で1万円ほど稼げます。それだけに1日8時間働けば8万円、月に20日働けば月収160万円になります。稼いでいるフリーランスの医者は年収1億円という話も聞くほどです。特に麻酔科にフリーランスが多いといわれています。麻酔は手術の内容によって高い技術が必要であり、難しいからです。ただし、フリーランスになると毎日がアルバイト生活なので、勉強する機会が著しく減り、医者として成長していくのが難しいという意見もあります。

(本誌/鳥海美奈子)


◇まつなが・ただし

 1961年、東京都生まれ。千葉大医学部を卒業後、小児外科医に。 日本小児外科学会・会長特別表彰など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。13年、『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』で小学館ノンフィクション大賞受賞。著書に『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中公文庫)などがある

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