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経済・企業 マグロ資源の危機

経済合理性だけではマグロ資源の持続的活用は難しい 和田肇・編集部

豊洲市場でのマグロの競り(2020年11月)
豊洲市場でのマグロの競り(2020年11月)

 ヘルシーでおいしい「海の幸」が危うい。安さを追求する消費者や流通業者、小売り、飲食店が漁師を乱獲に駆り立て、安値で買いたたかれる漁業関係者を疲弊させる悪循環を断ち切る時だ。1皿=100円のマグロずしは持続可能ではない。

 カツオ・マグロ類(クロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガ、カツオ)は、過剰漁獲による資源減少が懸念されている。その対策として、全世界の海洋に五つの「地域漁業管理機関(RFMO)」(表1、日本は全てに参加)が設置され、漁獲枠の設定をはじめ、さまざまな資源管理措置を実施している。水産庁によると、2021年の世界のカツオ・マグロ類の漁獲量は495.9万トン(うちカツオ278.9万トン)で、日本の漁獲量は23万トン(うちカツオ11.3万トン)。海域別では西太平洋が241.2万トンと全体の約半分を占めている。

枯渇の危機的状況

 現在のマグロ資源状況を確認しよう。表1はRFMOごとの魚種別資源評価の一覧表だ。マグロ類の資源量推計は、主に調査漁獲で捕獲した産卵親魚量を把握することから始まる。そこから産卵親魚量全体を推計し、この産卵親魚量自体を資源量としているケースが多い(水産庁資料)。これに対して、漁獲による資源量の減少率を表す漁業係数がある。各RFMOでは、資源の適正管理を目指して、資源量と漁獲係数の基準値を定めており、表1のプラスやマイナスは、その基準値との比較を表す。

 表1では、メバチ、キハダ、カツオなどは主にインド洋で過剰漁獲・資源減少と評価。ミナミマグロも南半球で資源減少の状況で、高級マグロとされるクロマグロは、東部・中西部太平洋で資源減少と評価されている。

 実際のマグロの資源数量に関しては、水産庁や水産研究・教育機構などが推計値として公表している。それらによると、国別では日本が最も漁獲量の多い太平洋クロマグロは、資源量(親魚)として22年時点で約14.4万トンと推計されている。

 しかし、1983年から2016年ごろまでは、資源量は毎年約1万~8万トン程度の範囲内で推移しており、資源枯渇の危機的状況といわれてきた。10年にはワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の国際会議で、大西洋クロマグロの取引禁止案が提案され、否決されるという事態も起きている。

 その後、RFMOや国内において、漁獲量の減少措置(漁獲制限)、未成魚漁獲量の減少措置、定置網漁業の免許数増加抑制、養殖漁場の新設制限などの対策が行われた結果、太平洋クロマグロの資源量は16年ごろから回復。21年にはWCPFCとIATTCの回復目標12.5万トン(親魚)を達成したと推計されている。

 太平洋クロマグロの日本の漁獲枠は、今年7月のWCPFC会議で、現行の大型魚(30キログラム以上)年間5614トンが8421トンに、小型魚(30キログラム未満)は4007トンから4407トンに拡大することで合意しており、12月のWCPFC会議で正式に決まる見通しだ。

 図は、22年の日本のマグロ類供給量だ。供給量は漁獲、国内養殖、輸入などを合わせたもので、日本市場に供給されたマグロ類の量となる。総量は21年の34万トンから約3万トン減少し、31.2万トンとなった。総量は11年から20年まで毎年35.6万~39万トンの範囲で推移。魚種の比率はここ10年大きく変わっていない。表2は、図の供給量を国別に表したもので、輸入が17万トンと全体の半分以上を占める。台湾(5.8万トン)、中国(2.5万トン)、韓国(1.7万トン)などからの輸入量が多い。

 水産庁の資料によると、21年の世界のマグロ類漁獲量は約215.2万トンなので、前述の日本のマグロ類供給量31.2万トンの水準はそれほど高くないように見えるが、クロマグロに限定すると、21年の世界のクロマグロ漁獲量4.9万トンに対し、日本の漁獲量は1.3万トンと、日本だけで4分の1近くを取っている。

 また、太平洋クロマグロだけに限定すれば、22年の世界全体の漁獲量1.7万トンのうち、日本の漁獲量は1.0万トンと5割以上を占める。日本のクロマグロ消費量がいかに大きいかが分かるだろう。

 日本がいかにマグロ資源の持続可能性に取り組むかが、世界全体のマグロ資源の保全に大きな影響を与えることとなる。

一網打尽の巻き網漁

巻き網漁のイメージ図(出所)水産庁資料
巻き網漁のイメージ図(出所)水産庁資料
はえ縄漁のイメージ図(出所)水産庁資料
はえ縄漁のイメージ図(出所)水産庁資料

 マグロ資源の持続可能性を考えた時、一つの重要なポイントとなるのが、マグロの漁法だ。代表的な二つの漁法(イメージ図)がある。このうち巻き網漁は魚を大量に捕獲する方法で効率性に優れるが、魚を根こそぎ捕獲してしまう。特に資源減少が危惧されるマグロ類に関しては、この漁獲法への依存が資源の持続可能性を損なう危険性も否定できない。

 一方のはえ縄漁は、基本的には大きな釣り針で釣る漁法なので、一定の大きさ以上の魚しか捕獲できない。巻き網漁に比べ効率は劣るものの、資源の持続可能性の観点からはメリットがある。

 マグロ漁は近年、巻き網漁が多くを占める。水産庁資料によると、22年の日本の大型魚・小型魚別の漁獲状況は、巻き網漁4702トンに対し、はえ縄漁は1587トンとなっている。経済合理性の追求だけでは、マグロ資源の持続的な活用は難しい。

(和田肇〈わだ・はじめ〉編集部)


週刊エコノミスト2024年12月3日号掲載

マグロ資源の危機 経済合理性の追求では持続的資源活用は難しい=和田肇

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