トランプ旋風は日本にチャンス 年末に日経平均4万3000円 谷道健太・編集部
トランプ氏の再選は、日本と世界の株式にとって好材料になりそうだ。
デフレ脱却を受けた設備投資と賃金の増加、円安による企業収益と訪日旅行(インバウンド)の拡大を材料に、2024年の日本株はバブル後の高値を更新した。25年は堅調なファンダメンタルズはそのままに、「トランプ旋風」という追い風が加わりそうだ。
米大統領に返り咲いたトランプ氏の政策はある意味分かりやすい。「アメリカファースト」を掲げ、米国の労働者から仕事を奪う不法移民は壁を作って追い返し、日独中などの海外企業の製品には高い関税をかけて、米国内のモノづくりを優先する。世界最大級の埋蔵量を誇る米国の化石燃料をどんどん採掘し、エネルギー価格を引き下げて労働者の負担を少なくする。防衛のただ乗りも論外だ。日本などの同盟国には当然、応分の負担を求めていく。
トランプ氏は一見、世界経済のリスク要因に映るが、市場関係者の間では、株式投資の「チャンス」と見る向きが少なくない。まず、25年1月の大統領就任後、「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(米国を再び偉大にしよう)」のスローガン通り、減税や規制緩和を柱として米国経済を盛り上げる政策を実行するだろう。当然ながら米企業の利益を押し上げる要因となる。
編集部では株式市場の識者10人に日米株式の先行きについてアンケートを実施した。アイザワ証券の今井正之・情報3課長は米ダウ工業株平均株価の25年末予想値を4万8000ドルとする(表)。24年11月22日終値の4万4296ドルより8%高い水準だ。今井氏は「米景気は強く、失業率も低いことから、景気敏感セクターの株価に上昇余地がある」と見通し、米半導体大手のエヌビディアやインテルなどを25年に有望な銘柄として挙げた。証券アナリストの宮川淳子氏は25年末のダウ平均を4万8860ドルと予想する。「米経済がプラス成長を遂げ、企業収益が増える見通しから、ダウ平均構成銘柄の1株当たり当期純利益(EPS)が24年11月中旬より1割増えるとして計算した結果」とした。米国の金融株高は英国にも波及しており、同国の大手銀行株は25年に有望という見立てだ。
米経済の好調は当然、米国でビジネスを展開する日本企業にもプラスに働く。識者の間では、米求人検索サイトのインディードを買収したリクルートホールディングスに米国の求人需要増が追い風になるという見方が出ている。トランプ氏が石油や天然ガスの開発に前向きなことから、日本企業では資源権益に強い三井物産も有望視されている。
インド株も人気に
トランプ氏の政策は日本企業にとって、もろ刃の剣にもなる。トランプ氏は輸入品に一律10~20%の関税を導入すると明言。24年11月25日には、メキシコとカナダからの輸入品に関税率25%を課すと発表した。メキシコをやり玉に上げるのは、日本を含む世界の自動車メーカーがメキシコを対米輸出の拠点としているからだ。対米輸出が多い日本の製造業には大打撃となるだろう。
一方、インド経済は高関税の影響が少ないとの見方がある。世界最大の14億人の人口を背景とした内需で、経済を回すことができるためだ。株式評論家の山本伸氏は、「トランプ関税の影響を受けない銘柄」として、12年に四輪車の米国販売から撤退し、インド市場に特化したスズキを25年の有望株に挙げる。モーニングスター・ジャパンの元利大輔・マネジャーリサーチ部長によると、24年は高成長期待からインド株投信が個人の間で人気化したが、この流れは25年も続きそうだ。
インフレの高進はトランプ政権の最大のリスクの一つだ。高関税だけでなく、1000万人を超すとされる米国の不法移民を国外追放すれば人手不足が深刻化し、賃金は高騰する。アイザワ証券の今井氏は「米金融当局はトランプ氏就任後、利上げサイクルに入る」と予想する。
もっとも、内外金利差の拡大を通じて一段の円安が進行すれば、日本の輸出企業の収益を押し上げ、訪日旅行人気を加速させる。auカブコム証券の河合達憲チーフストラテジストは国内企業の25年3月期決算で「およそ3社に2社が増益を予想している」と説明。訪日旅行拡大は国内消費にプラスだとして、大丸などの百貨店を経営するJ.フロントリテイリングを有望視する。
防衛関連株が有望視
日本国内を見れば、10月の総選挙で少数与党に転落した自民・公明の石破政権が難しい政策運営を迫られることがリスク要因だ。しかし、株式評論家の天海源一郎氏は「積極財政を唱える高市早苗前経済安全保障相を“次の首相”として意識する見方があることから、意外なほど株価への悪影響はない」と見る。「石破政権でも株高、石破政権でなくとも株高」と想定しているという。
そうした中、トランプ氏が石破政権に在日米軍や米太平洋艦隊の規模縮小をちらつかせれば、日本は防衛予算を増額せざるを得ない。その結果、日本の防衛関連株には強い追い風が吹く。今回、識者の間で、一番人気だったのが三菱重工業だ。同社は、戦車、潜水艦、戦闘機といった陸海空自衛隊の主力兵器を開発・生産してきた。山本氏によれば、川崎重工業とIHIを加えた防衛関連3社は「ずっと割安で“寝たきり銘柄”と揶揄(やゆ)されてきた」。しかし、3社の株価は過去4年半で4~9倍に上昇した。ロシアが22年、ウクライナに侵略したことを受け、日本政府が防衛関連費を大幅に増やすと決めたことが大きな理由だ。3社は株価がだいぶ上がったが、今後も業績向上が見込めるとして推す識者が多い。
識者10人が予想した日経平均株価の25年末予想は24年11月25日比11.8%高い4万3358円となった(図)。23年の28.2%高、24年初から11月25日までの15.9%高と比べると上昇率は下がっているが、今年7月に付けた4万2426円の過去最高値の更新が見込まれている。
(谷道健太〈たにみち・けんた〉編集部)
週刊エコノミスト2024年12月10・17日合併号掲載
2025年に上がる株 トランプ旋風は日本にチャンス 年末に日経平均4万3000円=谷道健太