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国民健康保険料が高すぎる!その理由と対策を徹底討論!対談 内藤眞弓×笹井恵里子

♢国民健康保険料が高すぎる! 対談 ファイナンシャルプランナー・内藤眞弓 ジャーナリスト・笹井恵里子

 約2500万人の国民が加入する最大の公的医療保険「国民健康保険」。その保険料が高すぎる!と悲鳴が上がっている。『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)を出版したジャーナリストの笹井恵里子さんと生活設計塾クルーのFP、内藤眞弓さんに国保が抱える問題点や保険料を下げる方法などについて語ってもらった。

大反響の『国民健康保険料が高すぎる!』1012円(税込)
大反響の『国民健康保険料が高すぎる!』1012円(税込)

―笹井さんはご自身の国民健康保険料(国保料)がものすごく高かったことから国民健康保険(国保)の問題に関心を持たれたのですね。

笹井恵里子 そうです。2020年に新規のお仕事を多くいただき、収入が前年より約330万円多くなって約890万円でした。3媒体で連載が始まり、書籍も出版し、講演の依頼も多かった年だったのです。ところが21年6月に自治体から届いた保険料決定通知書を見てビックリ。年間保険料が約88万円!。フリーランスで仕事をしていると交通費や資料代などの経費もかかりますから、それらを引いた所得は約640万円です。そこから88万円を引かれるのってどう思います?

内藤眞弓 働く気がなくなりますよね。

笹井 実体験を基に国保料が高すぎることを『サンデー毎日』で書き、他のネット媒体でも「国保料の下げ方」などの記事を配信しました。ネット記事は毎回100万PVを超えるぐらいアクセスがありました。書き込まれるコメントも「たまたま稼ぐことができた翌年に高い保険料の通知がきて驚いた」「年収1000万円以下の人が所得の1割以上の保険料を支払うのはキツすぎる」といった切実な声が山のように寄せられ、この問題は国民的課題なんだと実感しました。

内藤 年収が2000万円や3000万円といった高額所得者にとっては年間100万円程度が限度額の国保料は痛くも痒(かゆ)くもない額かもしれませんが、年収1000万円以下の人にとってはとても重い負担です。私も本を出して、ちょっと売れた時があって、その時に友人たちから「すごいわねえ。印税生活ができていいね」って言われました。フリーで働いていると、今年はそこそこ稼ぐことができても来年はゼロかもしれない恐怖心があります。国保料は前年の所得に基づいて決定されるのですが、収入は年によって異なりますし、先が見通せないんですよ。

笹井 会社勤めをしている人は健康保険組合(組合健保)に入っているので、国保が高いということをいくら話しても反応が薄い。定年や退職で会社組織を離れて国保に加入することになって初めて〝自分ごと〟になる人が多い印象があります。本の中にも書きましたが、私の知り合いも退職後に保険料が跳ね上がり、国保の話題に食いつくようになりました。私がメールを1通送ると5通ぐらい返ってきます(笑)。

―会社の健保組合の健保料もとても高い実感があります。

内藤 とはいっても国民健康保険や中小企業で働いている人が加入する協会けんぽ(全国健康保険協会)に比べて、組合健保は保険料率がとても低いです。応能負担、つまり能力に応じて負担し、必要に応じて利用するという原則が崩れていると思います。

♢サラリーマンも人ごとではない!退職後に3つの選択肢を比較

―笹井さんの話に戻ると、年間88万円の保険料は払われたのですか。

笹井 当時は娘が高校生で教育費もかかりますし、10回払いで月約8万8000円の保険料はとても払えないと思い、所得によって保険料が変わらない職業別の国保組合に加入しました。

 国保には業種ごとに組織される国民健康保険組合があるのです。薬剤師や芸能人などの組合もあります。私の場合は「文芸美術国民健康保険組合」(文美国保)に加入して、年88万円だった保険料が年度途中から44万円にまで下がりました。しかし、これも3年前に比べて24年度は12万円も上がり、同条件で年間56万円になりました。国保料は年々アップしています。

―なるほど。そうした組合に入るということも保険料負担を軽くする手ですね。

笹井 ただ、文美国保に加入するには組合の加盟団体の会員になる必要があり、その条件として著書を出版しているほか、理事や正会員の推薦状を書いてもらうなど、かなりの難関でした。他団体の国保組合も加入要件は厳しいと聞いています。

―そうなのですね。ところで会社員は退職後、2年間は継続してそれまでの会社の健康保険に引き続き加入することができる「任意継続被保険者制度」がありますよね。在職中は労働者と使用者(事業主)が労使折半で負担しますが、退職後の任意継続では全額自己負担となるので、定年退職者は国保より任意継続被保険者を選んだほうが有利、と聞いたことがあります。

内藤 以前は、退職時の標準報酬月額(毎月の給与を一定の範囲ごとに区分したもの)か、加入者全体の標準報酬月額の平均のいずれか低いほうを基に計算する、というルールがあったので、収入が高い人ほど任意継続を選ぶと〝お得〟だったのです。しかし2022年1月から退職時の標準報酬月額に基づいて保険料を決められるよう法改正され、必ずしも任意継続が有利とはいえなくなりました。(注1)

―任意継続を選んだ場合の保険料と、居住する自治体の国保料を調べて低いほうを選ぶ、ということですね。

笹井 そうです。先ほど言った私の知り合いも居住する役所に足を運んで自分の国保料を調べ、任意継続の場合は月約9万円、国保は約6万円だったため、国保に加入したそうです。国保を選ぶ場合は、家族全員分でいくらの保険料になるかも確認したほうがいいです。被用者保険は扶養者が何人いても保険料は同じですが、国保には扶養の概念がなく、世帯人数に応じて「均等割」などの保険料の上乗せがあります。世帯3人なら「3人分でいくらか」を確認しなくてはなりません。

◇国保はなぜバカ高なのか

―保険料がいくらになるのかは、どうやって調べればいいのですか。

笹井 役所の窓口で尋ねるか、ほとんどどこの自治体のホームページにも国民健康保険料のシミュレーションがあるので、そこで確認したらいいと思います。

内藤 保険料以外にも給付サービスを確認することも忘れずに。組合健保によっては、法定の高額療養費制度より有利になっていたり、健康診断などのサービスが安く利用できたりすることがあります。任意継続でも引き続きそうした付加給付やサービスが利用できるところが少なくありません。

笹井 組合健保は高額療養費制度が充実していると思います。国保の自己負担限度額は最低ラインですが、組合健保は医療費自己負担上限額が月2万~3万円程度というところもあり、恵まれているなあと思います。

 組合健保や協会けんぽに加入する人は、病気やケガで仕事を休んだ時に生活保障として公的医療保険制度から「傷病手当金」を受け取れますが、国保加入者にはそうした手当がありません。出産にかかる費用にあてる出産育児一時金は国保にはあるのですが、出産のために仕事を休んだ時の「出産手当金」が国保にはありません。格差が大きいと思います。

―任意継続、国保に加入のほか、配偶者や子が会社員として社会保険に加入していれば「被扶養者」になる、という選択肢もありますよね。

内藤 ただし、被扶養者になるためには年収130万円未満(60~74歳は180万円未満)という要件があります。ギリギリ社会保険の加入対象となるような働き方を軸にしつつ、やりたい仕事で起業して個人事業主として働く、という方法もありです。短時間勤務で社会保険に加入して保険料を安くしつつ、起業してもすぐに軌道にのるとは限らないのでリスク回避にもつながります。

―かつては自営業者と農林水産業者が加入者の約7割を占めていた国保ですが、現在は高齢者や失業者、非正規雇用者が増え「所得なし」の人が約3割を占める状況です。加入者1人あたりの平均所得は約96万円で、所得の2割を健康保険料として徴収されるケースもあるなど、とても家計がもちません。

笹井 国保は弱者連合と言われています。取材していても「平均所得が低いグループの中で多額の保険料を取るという仕組み自体が制度として破綻している」とよく聞きました。

内藤 加入者の年齢層が高く、医療費が高くなりやすいのも国保の特徴です。75歳以上は後期高齢者医療制度に加入しますが、65~74歳で国保に加入する人が多く、この層は病気になりやすい。特にがんは60、70代が中心ですから医療費がかかります。

―国保の保険料の算出の仕方も高騰の原因だと聞きます。

内藤 会社員などが加入する健康保険は、収入に保険料率をかけて計算するだけで、家族の人数が保険料に影響することはありません。一方、国保料は家族の人数に応じてかける「均等割」や各世帯に定額でかかる「平等割(世帯割)」(注2)があります。仮に「均等割」が5万円の場合、家族が1人増えるごとに5万円、10万円、15万円と国保料の負担額が上がっていきます(年額)。

―子どもの数が多いほど国保料が上がるなんて、子育て支援に逆行していますね。

笹井 国は22年度から未就学児に限り「均等割を半額」に軽減する方針を決めました。18歳以下の子どもの均等割を減免する自治体も増えてきているようです。

内藤 国保は所得から基礎控除(43万円)を差し引いて算定する方式のため、扶養控除や社会保険料控除は差し引かれません。

笹井 だから、よほど高所得者で、国保料の上限額(106万円)を支払ってもびくともしない人でない限り、一般的に国保料は住民税より高くなります。なんとかしてほしい(笑)。

◇国保料を下げたい人がやるべきこと、知るべきこと

―現実問題として国保料は下げることができるのか、どんな方法があるのかについて教えてください。

笹井 国保料を下げる制度としては「減額制度(軽減制度)」と「減免制度」があります。減額制度は、国民健康保険法(国保法)に基づき、保険料の7割、5割、2割を軽減する制度です。自治体が前年の所得に基づいて計算するので、自分で申請する必要はありません。所得税の確定申告や住民税の申告、国民健康保険料に関する申告書を提出していれば減額を受けることができます。遡(さかのぼ)って減額されることもあります。

内藤 実際に減額されている世帯は800万世帯近くあります。7割、5割、2割といった法定軽減だけではく、各自治体が定める申告減額制度もありますので、困ったら、自分の状況を的確に伝えられるメモなどを持って自治体の窓口に足を運んで相談したほうがいいです。確定申告の控えなどを持っていき「昨年まではこれぐらいの収入があり、税金をこれだけ払っていましたが、今年は収入が下がって払うことができません」など、支払いの意思はあるが納付が困難である、と具体的に話すことです。

笹井 住まいの自治体の職員とトラブったりした場合は、都道府県の国民健康保険の担当部署に相談するといいでしょう。

―今話題の「壁」の話とも関係しますが、低所得で高い国保料に悩んでいるなら、社会保険に加入できる事業所でアルバイトやパートをするという手もありますね。

内藤 従業員51人以上の企業で、週20時間以上働く月額賃金8万8000円(年収約106万円)以上の人は厚生年金の加入対象になり、勤め先の社会保険に加入できます。130万円を超えると配偶者の扶養から外れ、社会保険料の支払いが義務づけられます。

―減免制度についても教えてください。

笹井 国保法第44条に、医療費の窓口一部負担金の減額・免除制度があります。自治体により適用対象は異なります。災害や不作、廃業、失業などで生活困難に陥るなど厳しい要件を定めるところが多いですね。コロナ禍であっても第44条はほとんど適用されなかったようです。

―前述のように、国保料は負担が重いため、滞納世帯は189万世帯(23年度)にのぼります。払えなくなったらどうすればいいのでしょうか。

内藤 とにかく行政窓口に行って相談すること。滞納をそのままにしておくと、最終的には財産を差し押さえられます。

笹井 本の中にも書きましたが、群馬県前橋市で働く40代のシングルマザーは生活が苦しくて国保料を納めていない時期があり、延滞金を含めて50万円程度の滞納がありました。昼も夜も働き詰めで、約12万円の給料が振り込まれた時に市から銀行預金を差し押さえられ、強制的に10万円を徴収されたのです。それだけではなく、入っていた生命保険を強制解約させられて解約返戻金を市に徴収されたのです。この女性は6年前にがんのため亡くなったそうです。

―ひどい話です。違法ではないのですか。

笹井 違法ではありません。市税を滞納している市民が生命保険に加入していて解約返戻金がある場合には、契約者の意思によらず生命保険契約を一方的に解約することができるのです。ただ、解約返戻金があるという理由だけで強制解約に及ぶなんて乱暴すぎる、と支援していた男性は怒りに震えていました。

―笹井さん自身の元にも差し押さえの通知がきたことがありますね。

笹井 はい、21年11月、携帯電話のショートメールに「このまま国民健康保険料の未納が続くと、あなたの財産を差し押さえます」というメールが届きました。その数日前には郵便で「今すぐ納付してください」と書かれた督促状を受け取っていました。29万円の国保料を滞納していたのです。

―びっくりしますよね。

笹井 自分が悪いのですが、差し押さえはやはり怖いです。すぐに区役所に連絡を取り、29万円を24回に分け、月額1万2300円ずつ納付し、2年後に完納しました。この間に、先に話した加入している文美国保と併せて毎月約5万円の国保料を払っていました。やっと払い終えたと思ったら今度は約4万円の延滞金の請求がきました。それも分割して支払い、今年やっと完済しました。

◇もっともっと声を上げていこう

―長期不況で国民の経済力が落ち、支払い能力が限界を超えてしまっているという根本原因を改善しないまま、督促や差し押さえを強化しても問題は解決しないような気がします。

内藤 低所得にあえぐ人に過酷な滞納処分を科すことは経済合理性とかけ離れています。

―最後に、国保を立て直すにはどうすればいいのか。私たちができることは何でしょうか。

笹井 1984年までは国保収入の約6割を国庫支出金が占めていましたが、現在は3割以下です。減らされた国庫負担分を被保険者の保険料に肩代わりさせていることが保険料高騰の大きな要因なので国庫負担を増やしてほしいと思います。もしくは将来的には健康保険を一つの仕組みにしてほしい。

 今すぐにできることとしては、国保料の最大上限額が3年連続で上がり続けていますが、研究者らによると、限度額を引き上げるとその負担は加入者全体に及ぶと指摘しています。なので、上限額そのものを撤廃したほうがいいと思います。

内藤 現在の国保料の年間総限度額は106万円。これを撤廃し、所得に応じて払うようにすればいい。

笹井 年収2000万、3000万円の人には相応の負担をしてもらうのです。そして一番大事なことは、やっぱり国民が声を上げることだと思います。私が書く「国保料は高すぎる」という記事への反応をみても、皆さんほんとに困っているし怒っています。もっともっと声を上げていかなければいけないと思います。

内藤 国民の声で政治家たちを動かし、国会で質問させる。

笹井 知識と知恵を持ち、明るくたくましく生きていきましょう!

     

注1:現在のところ「協会けんぽ」は、退職時の標準報酬月額か、加入者全体の標準報酬月額の平均のいずれか低いほうを基に計算する

注2:平等割を採用しない自治体が多い

◇ないとう・まゆみ

 ファイナンシャルプランナー、博士(社会デザイン学)。生活設計塾クルーのメンバーとして、家計や保険の見直し、マネープランなどの相談業務に携わる。近著に『共働き夫婦 最強の教科書』(東洋経済新報社)

◇ささい・えりこ

 1978年生まれ。『サンデー毎日』記者を経てフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日』(NHK出版新書)、『潜入・ゴミ屋敷』『実録・家で死ぬ』(ともに中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など

サンデー毎日12月29日号(12月17日発売)には、他にも「全国を歩くエコノミスト 藻谷浩介が石破首相に提言」「年の瀬に生まれた競馬名勝負列伝 有馬記念激走史」「目覚めスッキリな快眠ルーティン ぐっすり眠れるコツ!教えます」などの記事も掲載しています。

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