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メディアは皇族の受験をどのように報じるべきか 成城大教授・森暢平

悠仁さまが通われることになる筑波大の大学棟=2024年12月12日
悠仁さまが通われることになる筑波大の大学棟=2024年12月12日

♢社会学的皇室ウォッチング!/138 メディアは皇族の受験をどのように報じるべきか

 悠仁さま(18)の筑波大進学では、なぜ東京から通学するのかが話題の焦点になっている。だが、私はもう一度、悠仁さまの受験と合格がどのように報じられたのかという根本を考えてみたい。そもそも、皇族の受験はどう報じられるべきなのか。(一部敬称略)

 悠仁さまが筑波大の学校推薦型選抜を受験したのは11月28、29日である。秋篠宮家のミニバンが大学構内を走る姿は、日本テレビとフジテレビのカメラが同じ位置から撮影し、合格した12月11日にオンエアされている。日テレの「news every.」で宮内庁担当の加納美也子は「(悠仁さまは)会場近くまで車で移動し、一人で試験会場入り口へ歩いて来られたということです。そして背負っていたリュックから受験票と見られる書類を取り出し、近づいてきた職員に礼儀正しくお辞儀をして書類を見せ、会場に入られた」と解説した。

 宮内庁担当記者の多くは、筑波大受験を把握していた。しかし、もちろん、取材設定はなく、日テレとフジは宮内庁の許可を得ない「隠し撮り」をした。受験会場に入る様子を描写した日テレの報道は、他社にない情報でかなり踏み込んでいた。

 11月末の時点で、悠仁さまの合否はむろん分かっていない。だから、宮内庁詰めの記者たちは、受験を報じなかった。合格発表は12月11日午前10時で、合格の確認が取れた社から五月雨式に、合格情報が流れ始めた。宮内庁による正式発表は各社報道のあとの同日夕刻。発表文書には「多くの受験生が努力を続けている今の時期に、(悠仁さまは)自身の受験や合否についての発表を控えたいとの気持ちだった」との趣旨で書かれていた。

 皇室報道には、宮内庁の記者クラブ(宮内記者会)に属し、皇室関係者への深い情報源を持つ大手メディアによるものと、面白ければあやふやで怪しい情報でも書いてしまう一部週刊誌やネットメディアによるものに分かれる。今回、宮内記者会の記者は慎重を期し、筑波大受験は知っていたが、合格まで記事にしなかった。

◇ICU受験報道に佳子さま、クレーム

 これには、悠仁さまの姉、佳子さまのときの反省という意味もあるだろう。佳子さまは学習院大2年生だった2014年8月末、大学を中退。そのことは宮内庁から発表されていなかったが9月11日にNHKが、中退とともに国際基督教大(ICU)のAO入試受験を報じ、各メディアも続いた。この時点で、佳子さまは願書を出したばかりだった。ICUのAO入試は書類審査で第一次合格が、面接・グループディスカッションで最終合格者が決まる。不合格の可能性さえあるのに、ICUの名前を出して報道されてしまった。

 その後、佳子さまは10月24日に合格した。入学手続きを終えて、10月30日に宮内庁が合格と翌年4月からの入学を正式発表した。このとき、宮内記者会各社は発表を待つという形を取った。受験する時点での報道に、宮内庁サイドがクレームを付けたためだと思われる。実際、佳子さま自身、20歳となったのを機に行われた記者会見(12月15日)で、次のように不満を述べた。「合格する前から、ICUを受験するという内容の報道がされていました。この報道を宮内庁が発表したものと勘違いされている方が多いようですが、宮内庁から私がICUを受験するという内容の発表はしておりません。合格するかどうか分からないなかで、このような報道があったことで、さまざまな誤解があったと思います」

 佳子さまははっきりと報道にモノ申している。佳子さまは「幼稚園から高校まで学習院に通っており、限られた一つの環境しか経験できていないと感じることが多くございました。中学のころから、別の大学に行きたいと考えるように(なった)」と退学の理由を明確にした。そのうえで、「(高校3年のとき、他大学を)受験いたしましたが不合格となったため、内部進学で学習院に進学いたしました。入学したからにはきちんと卒業するべきだという考えもございました」と続けた。高校3年のとき、外部進学を希望し、受験したが不合格になってしまった事実までカミングアウトしたのである。ICUでは英語の授業が行われ、専攻を決めずに幅広く学べるという転学の理由を強調した。

 皇族は学習院に通うべきだと時代錯誤の主張をする人たちがいる。そうした人は、佳子さまの心の叫びに真摯(しんし)に耳を傾け、皇族の学ぶ権利について思いを致すべきではないだろうか。

◇週刊誌の「フェイク」が秋篠バッシャーを刺激

 今回、悠仁さまが筑波大を受験したという情報は、宮内記者会に属する新聞・テレビが合格を報じる直前、週刊誌メディアに漏れた。最初に報じた12月3日発売の『女性自身』(12月17日号)は、「国民反発で東大は断念」と相変わらずのデマを飛ばしている。同誌は、悠仁さまの成績が伸び悩み、それが東大推薦入試の受験断念の要因であることまでほのめかす。しかし、悠仁さまは筑波大附属高校で成績上位である。フェイクニュースは、ネットの世界で秋篠宮家バッシングに情熱を燃やす人たちによって拡散され、嘘が嘘を呼ぶ。

 問題は、宮内記者会に属し、深い情報源を持つ記者たちが、週刊誌やネットの嘘情報に何もできなかったことだ。兵庫県知事選の際、ネット上のデマに大手メディアが手をこまねいたのと同じ構図である。悠仁さまには学ぶ自由があり、そのために可能な限りそっとしてあげるのが大人の作法だ。一方で、責任あるメディアが何も報じなければ、フェイクニュースが真実のように受け止められてしまう。

 今回、日テレの宮内庁担当、加納の解説は、悠仁さまのプライバシーに踏み込んでいたものの、ネット上の嘘を打ち消すという意味で、重要な情報だった。宮内庁もこうした報道を、当局の許可を得ていないと頭から否定するのではなく、どうすれば皇族の学習環境が整うのか、また、ネット時代の情報発信はどうあるべきかなどをさらに考えてほしい。(以下次号)

■もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など

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