小説 高橋是清 第1話 追悼会=板谷敏彦
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昭和12(1937)年2月28日夜、前年の2・26事件で殺害された高橋是清の追悼晩餐(ばんさん)会が帝国ホテルで開催された。帝都を震撼(しんかん)させた反乱事件のショックから1年が過ぎた日のことである。
事件当時に第13代日本銀行総裁の役職にあった深井英五は、その後も1年間職務を続け、この追悼会の少し前に辞職したばかりだった。
深井は赤坂日枝神社下の自宅で追悼会出席の準備を整えると、迎えの自動車に乗り込んだ。深井は一般の歴史の中ではほぼ無名だが、金融史の分野ではきらめく巨星のひとつである。約30年前の日露戦争以来、長らく高橋是清に仕えて共に仕事をしてきた、いわば相棒だった。
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