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資源・エネルギー 福島後の未来をつくる

日本のプルトニウム処分に必要な国際協力と核燃料サイクル見直し=鈴木達治郎 福島後の未来をつくる/76

日本のプルトニウム在庫量は世界5位(2016年末)
日本のプルトニウム在庫量は世界5位(2016年末)

 政府は7月3日、「エネルギー基本計画」を4年ぶりに改定し閣議決定、その中で初めて「プルトニウム保有量の削減に取り組む」ことを明記した。そして、7月31日、原子力委員会は15年ぶりに「プルトニウム利用の基本的考え方」を改正し、「プルトニウム保有量を減少させる」と明記した。これにはいったいどういう背景があるのか。そしてその根本的問題はいったいどこにあるのか。

 プルトニウム問題の本質は、グローバルな国際安全保障問題として捉える必要があり、エネルギー政策としても「負の遺産」として捉えるべきだ。プルトニウム問題の解決策を安全保障、並びにエネルギー政策の視点で検討してみる。

増え続ける「負の遺産」

 2016年末現在、世界に存在する分離プルトニウムの在庫量は、推定518・6トン(図)。これを長崎型原爆(1発当たり6キロ)に換算すると、8万6440発分にも相当する。問題は、それが今も増加していることだ。さらにその6割近い約290トンが平和利用の原発から回収されたプルトニウムである点だ。これは核燃料サイクル(使用済み燃料に含まれるプルトニウムを再処理して回収し、再利用する)政策がもたらした結果の、いわば「負の遺産」である。その中で、日本のみが非核保有国で大量のプルトニウム、実に47トンを所有している事実は重い。

 そもそも、なぜプルトニウムがこれほどたまってしまったのか。それには、日本の原子力政策の骨幹ともいえる「核燃料サイクル」推進の理由とその破綻を理解する必要がある。核燃料サイクルを推進する理由には大きく三つ挙げられていた。

 第一に「エネルギー安全保障」。開発当初の1960~70年代、ウラン資源は希少資源と見られていた。

 しかし、その後、ウランは豊富にあることが分かり、当初は20~30年程度であった可採年数(確認埋蔵量÷年間需要量)は100年以上に延びている。さらに、もともと原子力発電は化石燃料とは異なり大量(数年分)の燃料備蓄が経済的にも可能であるから、ウラン燃料危機に強いことが売り物であったはずで、プルトニウムは必要がないといえる。

 プルトニウムが「国産エネルギー」であるという主張も根拠が薄い。プルトニウムは石油にもまして国際政治・安全保障にかかわる機微な物質であり、がんじがらめの国際規制がかかっている。だからこそ、米国から再処理について「包括的同意」(あらかじめ定めた条件内の再処理なら一括で承認すること)を保証され、今年7月17日に発効から30年を迎えて自動延長された「日米原子力協定」が日本にとって重要なのだ。

 第二は「経済性」。これも問題外だ。政府は80年代後半にはすでに核燃料サイクルより使用済み燃料を「直接処分」するほうが経済的であることを知っていたようだ。しかし、そういったデータは90年代後半まで公開されることはなく、ようやく05年の原子力委員会の「原子力政策大綱」により明らかになった。福島原発事故以降に行われた12年の原子力委員会の評価では、「全量再処理」は「直接処分」(使用済み核燃料の全量を地中に埋設するなどして隔離すること)の約2倍のコストになると推定され、もはやプルトニウムは「負の経済価値」をもつ「負債」であることが確実となったのである。

 第三は「使用済み燃料(放射性廃棄物)の減容・毒性低減」である。

 使用済み燃料に比べ、再処理後の廃棄物は「減容」(体積が小さくなること)され「毒性低減」の効果があるので、再処理が望ましい、との主張がある。これに対し、岡芳明原子力委員会委員長は、最近のメールマガジンで、この説を真っ向から否定し、「有害度低減が可能であるとの誤解が広がるのは、そう主張する原子炉の専門家が地層処分の安全評価をよく知らないためではないか」と述べている。

 したがって、核燃料サイクルを現時点で進める合理性は極めて薄い。しかし、ここ数年で、再処理活動は大きな分岐点を迎える。日本の六ケ所再処理施設(青森県、プルトニウムを年間8トン生産可能)が21年に稼働を始める計画であり、中国も同規模の商業用再処理計画の建設計画を発表している。

 韓国も再処理に関心を示しており、アジアではプルトニウム生産量が大幅に増える可能性が出てきたのである。一方で、英国は間もなく再処理から撤退する方向であり、再処理にかかわる重要な意思決定がここ数年でなされることになる。

 7月31日の原子力委員会の決定は、「プルトニウム保有量を減少させる」と明言したものの、その措置として、政府として強制力を持つのは、「再処理等拠出金法」に基づいて、政府の認可事業である再処理のペースを抑制することと、研究開発のプルトニウムについて「処分」を検討する、としたことだけである。それ以外は、ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)燃料を既存の原発で燃焼させる電力会社のプルサーマル事業の進展に依存している。また使用済み核燃料の「全量再処理」政策も維持する前提であるため、本当にプルトニウム保有量が減少するかどうかは、定かではない。

実現性高い「スワップ」

 そこで筆者は選択肢として二つ提案したい。

 第一は、「プルトニウム処分の国際協力」である。その一つの案が、「プルトニウム所有権」の譲渡や交換である。これは、今までにも小規模な「交換(スワップ)」を商業上の理由から実施してきたことがあり、実現性が高い。特に、英国が提唱している「英国内にある外国籍のプルトニウム所有権の引き取り」は、国内で所有権を移転可能とすることで、核テロのリスクが高い海外へのプルトニウム輸送を省くこともできる極めて有力な案だ。また、原子力委員会は「事業者間の連携・協力を促す」ことでブルトニウムの消費を早めようとしている。

 実は、電力会社は、これまでにも北海道電力に東京電力のプルトニウムを譲渡したり、電源開発の大間原発(青森県)用のプルトニウムを、他電力会社が分担して譲渡する計画を明らかにしている。東電とドイツの電力会社もプルトニウムの所有権を交換した経験がある。さらに、原子力基本法13条に「政府は(…)別に法律で定めるところにより、核燃料物質を所有し、または所持する者に対し、譲渡先及び価格を指示してこれを譲渡すべきことを命ずることができる」と書かれており、電力会社に命じて、融通させることも可能だ。

 ただ、プルトニウムをウランと混合させて使うMOX燃料は、ウラン燃料の10倍も高いと推定されており、米国も自国の余剰プルトニウムの処分案としては現在、安定固化(放射性廃棄物を固型化すること)して直接処分する技術開発に取り組んでいる。英国もMOX燃料案と並行して、直接処分の技術開発も進めている。このような「処分技術」の共同研究開発も検討に値する。

 第二は、「核燃料サイクル政策の見直し」である。前述したように核燃料サイクルを商業規模で行う合理性はない。たとえ、プルトニウムがエネルギー資源として必要であったとしても、現在の在庫量を消費するだけで30年はかかる。この時間を利用して、再処理政策の総合的評価を行い、日本のみならず、世界で再処理を縮小・撤退することが望ましい。

 プルトニウム問題は、グローバルな安全保障の視点から見ることが必要で、日本はそのリーダーシップを取れる国であり、また取らなければいけない。

(鈴木達治郎、長崎大学核兵器廃絶研究センター長・教授)


 ■人物略歴

すずき・たつじろう

 1951年大阪府生まれ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)修士課程修了。東京大学工学博士。MITエネルギー環境政策研究センターなどを経て、2010~14年に政府原子力委員会委員長代理。14年長崎大学教授。15年から現職。


「福島後の未来をつくる」は過去の連載を含め、全文を週刊エコノミストのホームページに掲載しています。

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