編集部から 黒崎亜弓/松本惇
編集部から
「私は息子に継いでくれと言えなかったんですよ」。6年前、62歳で死を前にした父が、病床を見舞った私の夫に問わず語りにつぶやいた。
実家は静岡で緑茶の製造卸小売業を営んでいた。父の死とともに事業を畳み、自宅1階の店舗はがらんどうでシャッターが下りたまま、隣接する工場は貸し倉庫になっている。
妹の私はお気楽なものだが、長男である兄は就職後に継ぐことを考える節目が何度かあったようだ。父と兄のやりとりを知る由もないが、冒頭の言葉で父の思いに初めて触れた。自分の代で事業を大きくしたものの、緑茶の市場縮小や、兄がグローバル企業で仕事に打ち込んでいることがあったのだろう。
次号に向けた事業承継の取材で、息子や娘が新事業を展開したり、別の経営者が引き継いだりする潮流を知った。父が生きていたら、違う道があっただろうか。
(黒崎亜弓)
8月に家族で出掛けた京都で民泊を体験した。
オーナーの女性(53)が所有するワンルームマンションを改装した部屋には、掛け軸があるなど「和」の要素が盛り込まれていた。洗濯機や調理器具などが用意されており、長期滞在が可能だ。中国人やオーストラリア人など外国人の利用が多く、宿泊人数をごまかすなどのトラブルはあるが、部屋を荒らされたり、備品を壊されたりといった被害はないという。我々家族は夜にこの部屋でオーナーの女性と酒を酌み交わし、新たな友人ができたように感じた。
業者運営の民泊施設にも泊まったが、オーナーとの交流はなく、ホテルに泊まる感覚と一緒だ。同じ民泊といっても、さまざまな形態を実感した。
市内の住宅街では大きなスーツケースを持つ外国人をあちこちで見かけた。民泊が日本のインバウンドを支えることになるかもしれない。
(松本惇)
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