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世界中で同一品質のワイヤハーネス 井上治 住友電気工業社長 編集長インタビュー/925

井上治 住友電気工業社長
井上治 住友電気工業社長

世界中で同一品質のワイヤハーネス

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 会社の成り立ちは。

井上 住友グループのルーツとも言える別子銅山(愛媛県)の銅を溶かして、板や棒、線にするために、1897年に大阪に住友伸銅場を開設したのが始まりです。銅線は1900年代以降、送配電や電信用に使われるようになりました。また、銅線を起点に、被覆材となる化学素材や、ガラス製品である光ファイバーの製造などにも事業領域を広げてきました。

自動車向けが主力

── 現在の主力事業は何ですか。

井上 ワイヤハーネスを中心とした自動車分野が売り上げの52%を占めます。ワイヤハーネスは、自動車の電気・電子機器間で、動力や情報を伝達する役割を果たします。構造としては、銅線を束ねて、電気・電子機器と接合する端子・コネクターを付けたものです。自動車1台に2000~3000メートル張り巡らされています。1940年代に国内で始めた事業ですが、海外進出やM&A(企業の合併・買収)をして拡大してきました。2001年度の売上高は約3200億円でしたが、現在は約1兆2000億円に達しました。

── 今後の需要動向は。

井上 まず、自動車の台数自体が増えます。新興国の需要増を追い風に、世界の自動車生産は年間3~4%の伸びが予想されます。また、自動車で使われる電子機器が増えるため、1台当たりに搭載するワイヤハーネスも増えることが見込まれます。

── 住友電工の強みは。

井上 自動車メーカーが世界各地で同一車種を製造する中で、世界どこでも同一品質のワイヤハーネスを、求められる分量だけ供給できることが必要になります。当社は、ワイヤハーネスに関連する会社を世界32カ国に96社有していますが、どの生産拠点でも同一品質で製造できます。このような供給体制がなければ大手自動車メーカーから受注はできないため、世界シェアは当社を含めた4社で75%を占めます。

── 技術的な強みはどこに。

井上 自動車の電動化には、より軽量化が求められます。そこでワイヤハーネスの銅線をアルミにする、あるいは、より細い銅線を開発しています。また、時にはエンジンルームに水が入ってきたり、高温になります。過酷な環境にも耐えられるよう、防水や耐熱効果のある端子やコネクターも開発しています。

── 他の銅線事業はどうですか。

井上 送配電用ケーブルは創業事業の流れをくみます。ケーブルは銅線の束の周りを被覆材で囲みます。銅線自体では技術的な差別化が困難になっている中、当社は被覆材で特徴を出しています。当社製品は独自配合したポリエチレン系素材で被覆しています。

 従来、被覆材には、油に浸した紙を使っていました。今は順次、軽くて敷設しやすいポリエチレン系被覆材に置き換わっています。また、従来の直流用のポリエチレン系被覆材は、電線の温度が70度までしか耐えられませんでした。しかし、当社の被覆材ならば90度まで耐えられます。

── 電線の需要は。

井上 欧州で洋上風力発電事業が相次いでいることや、各国間での連系線整備のために、海底送電網の大規模プロジェクトが複数あります。当社では、ベルギーと英国を結ぶ長さ141キロの海底送電網敷設にケーブルを提供しました。19年1月に完工予定です。

── 銅線事業以外はどうでしょう。

井上 通信用の光ファイバー関連の需要は、中国での設備投資需要を背景に4年ほど前から伸びています。また、今後、次世代無線通信「5G(第5世代)」の設備投資が国内外で加速しますし、IoT(モノのネット化)普及などでデータセンター需要も伸びることが期待されます。当社は、光ファイバーの母材である棒状の石英ガラス「プリフォーム」、光ファイバー、光ファイバーを束ねた光ケーブルを生産しています。

── 光ファイバー・ケーブルの差別化要因は。

井上 伝送距離が長いと、光がファイバー内を伝わる際に散乱したり、石英ガラス内に含まれる不純物に吸収されて、減衰してしまいます。これを「伝送損失」と言います。当社の光ファイバーは、世界一低い伝送損失を誇ります。中心部の素材に純シリカを使い、ファイバーを樹脂で被覆する技術を向上させたのです。低損失ファイバーの母材は差別化の核を握るので、国内でしか生産していません。

 1本のケーブルの中にファイバーをいかに多く収容するかという「多心化」も差別化要因です。当社は、独自の束ね方を編み出したことで、3456心の光ファイバーケーブルをいち早く開発し、さらに心数を増やした超多心ケーブルの実用化に取り組んでいます。

関西から世界へ視野

── 松本正義会長が関西経済連合会会長を務め、関西企業として存在感を発揮しています。

井上 住友グループは関西が発祥の地ですが、グループの多くの会社が東京に本社を移しました。ただ、当社は、大阪だけではなく、北海道から九州まで全国に工場が分散していますし、海外の生産比率が60%を超えています。本社を東京にする必要はまったくないのです。また、これだけITが発達すればどこででも情報は取れます。それに、大阪は東南アジアや中国にも近い。大阪に恩を受けた会社として、関西から引き続き世界を視野に活動をしていきたいです。

(構成=種市房子・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 工場経理を担当していました。当時は年2回だった決算期には、世界中の生産拠点から英語の書類が届きます。英語を読み込み、契約関係の勉強をするいい機会になりました。

Q 「好きな本」は

A 宮部みゆきさんの作品が好きです。

Q 休日の過ごし方

A 家の周囲の公園や団地を1時間半程度散歩します。いい気分転換になります。


 ■人物略歴

いのうえ・おさむ

 1952年生まれ。久留米大学附設高校卒業、九州大学経済学部卒業。75年住友電気工業入社、自動車部長、常務取締役などを経て、2012年に子会社の住友電装社長、17年6月から現職。米国やインドネシアなどの海外駐在経験を持つ。福岡県出身、66歳。


事業内容:自動車・通信・エレクトロニクスなどの素材・部材製造

本社所在地:大阪市中央区

創業:1897年4月

資本金:997億円

従業員数:25万5133人(2018年3月末、連結)

業績(18年3月期、連結)

売上高:3兆822億円

営業利益:1731億円

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