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経済・企業 2018年の経営者

「技術力とコスト力を備えた素材づくり」池田哲夫 小松精練社長 編集長インタビュー/922

池田哲夫 小松精練社長(撮影=武市公孝)
池田哲夫 小松精練社長(撮影=武市公孝)

技術力とコスト力を備えた素材づくり

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 斜陽産業と言われる繊維業界で、業績拡大を続けています。

池田 世界の人口が70億人を超えて80億人に迫っているなかで、衣料や寝具など繊維を使う量が世界で拡大するのは間違いありません。繊維は斜陽どころか世界的にみれば成長産業で、どこで戦うかがポイントになります。

── どこで戦うのですか。

池田 当社が目指しているのは、「どこにでもある材料を、どこにもない材料に変える」ことです。どこにでもある原糸・原綿を使い、どこにもないような魅力的で機能性の高い合成繊維をつくる技術力が特技で、欧州の高級ブランドからも高く評価されています。

── 具体的には。

池田 「織り」「編み」は自社で行っていないので、「染め」の繊維の要素技術を組み合わせる力を愚直なまでに磨いてきました。例えば、ダウンジャケットの生地では、髪の毛の10分の1ほどの細さの素材を、密度を保ちながら均一に染めることができます。軽量でファッション性に優れた高品質の素材を欧州の高級ブランド向けと、コスト競争力が求められるファストファッション向けの両方に供給しています。中国メーカーにもまねできないと自負しています。

── 中東で男性が身に着ける白色の民族衣装「トーブ」の素材でも評価されているとか。

池田 肌ざわりや丈夫さ、白の質感などに優れた高級トーブの素材の加工や販売をしていて、この分野における日本品では約8割のシェアを持っています。

── 同じように見える民族衣装でどのように違いを出すのですか。

池田 遠目には、同じ単色の白に見えますが、その内訳は約150種類の白色に細分化され、一つの素材から50~60種類の風合いを出せるのです。沿岸部と山岳部では湿気に大きな違いがあり、湿気の高いところでは締まった風合い、低いところには柔らかい風合いなど、バリエーションをそろえることができるのは当社の他にありません。

── 衣料向け以外はどうですか。

池田 当社の素材は衣料を起点に、応用分野が広がっています。例えば、世界的に有名なオーディオメーカーが採用しているヘッドホンの耳当てに使う湿式発泡素材は、ウレタンを発泡させて細かい繊維をつくることで、外側から水を通さず、内側の水蒸気のみを通過させることで蒸れを逃がす「透湿防水」を実現しているのが特徴です。自動車の内装や化粧用パフなどにも採用されています。

隈研吾氏とコラボ

── 建築資材に使う素材の開発にも力を入れていますね。

池田 染色産業の廃棄物を約1000度の高温で焼き、吸水力・保水力に優れた超微多孔性の発泡セラミック基盤「グリーンビズ」を開発し、2009年から展開しています。主に屋上緑化材として、東京・銀座の百貨店などに採用されています。小さな穴に雨水を含むことで、打ち水と同じように路面表面を冷却する効果があります。また、表面吸水能力にも優れているので、都市型のゲリラ豪雨対策にも有効なんですよ。

── 建築家の隈研吾氏との協業が話題です。

池田 隈氏は高機能で軽量、素朴な質感、リサイクルも可能という開発コンセプトに共感し、米オレゴン州ポートランド市の都市公園ワシントン・パークにある「ポートランド日本庭園」など、隈氏が手掛ける建築物にも採用してくれています。

── 炭素繊維を使った耐震補強材も開発していますね。

池田 鉄に代わる建材として炭素繊維複合材料「カボコーマ・ストランドロッド」を開発しました。炭素繊維は鉄に比べて軽いのに引っ張り強度が高く、さびません。棒状で長さ約160メートルでも重さは12キロにしかならず、軽いので持ち運びも容易です。同等の強度を持つメタルワイヤーなら約35倍の重量になります。隈氏も将来性に注目しています。

10月から新社名に

── もう実用化されていますか。

池田 現行の建築基準法では、建造物の柱・梁(はり)・土台部分などに使用する構造材として、炭素繊維を使用することは認められていません。そのため、現在は神社仏閣など伝統文化財の修復や耐震補強で活用されています。例えば、国の重要文化財である「善光寺経蔵」の保存修理工事や、世界遺産に登録されている富岡製糸場のそばにある富岡3号倉庫などです。また、鉄道のホームの転落防止柵としての活用を目指し、JR六甲道駅(神戸市)で現場テストが始まりました。このほど、耐震補強材として国内標準化(JIS化)が決まり、技術的な普及が進むと期待しています。

── 10月から社名を変更するそうですね。

池田 会社設立から75周年の節目に、社名から繊維加工の工程である「精練」を取り、「小松マテーレ」に変更します。9月27日に臨時株主総会を開き、正式に決める予定です。マテーレは、あらゆる素材を示す「マテリアル」と、繰り返し新しい価値を創造する意味を込めた「Re」を組み合わせた造語です。

── 社名に込めた意味は。

池田 従来の繊維の範囲にとらわれず、新しい素材など多様性のある会社に生まれ変わるという決意表明です。海外事業もこれまで以上に強化し、近い将来、売上高の半分は海外で稼ぐようにしたいと思っています。

(構成=小島清利・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 営業でしたが、仕事が面白くなり、上司に言われるまでもなく、没頭していました。

Q 「私を変えた」本は

A 水道の水のように良質な商品を誰もが買える価格で提供する、「水道哲学」を唱えたパナソニック創業者の松下幸之助さんが好きです。成人する社員には、松下さんの著書『道をひらく』を贈っています。

Q 休日の過ごし方

A 休日の一日はゴルフを楽しみ、もう一日は愛犬と戯れます。


 ■人物略歴

いけだ・てつお

 1959年生まれ。石川県立寺井高校、京都産業大学経済学部卒。81年小松精練入社、上席執行役員営業本部長補佐、取締役常務執行役員営業本部長などを経て、2011年1月から現職。石川県出身。59歳。


事業内容:衣料、資材向け繊維製品や建築資材製造

本社所在地:石川県能美市

設立:1943年

資本金:46億8042万円(2018年3月31日)

従業員数:1293人(18年3月31日現在)

業績(18年3月期、連結)

売上高:386億7900万円

営業利益:21億5100万円

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