「メガネを超えたメガネを作る」田中仁 ジンズCEO 編集長インタビュー/920
メガネを超えたメガネを作る
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── メガネ市場の現状と成長戦略を教えてください。
田中 メガネ市場は毎年約4000億円規模で推移しており、年間約1700万本が売れている計算です。当社はコンタクトレンズなどを除くメガネの売上本数だけでみると、トップクラスです。今後は、機能性メガネの開発や普及を加速させる一方で、まだ伸びしろのあるロードサイドにも販売網を広げていきます。
子ども用需要拡大
── 機能性メガネを強化する狙いは。
田中 メガネがファッション性を備えていることは当たり前で、手にとってもらった人に価値を与える特徴のある商品を提供することが重要です。エアフレーム(軽量メガネ)やブルーライトカットメガネなど、新しい発想の商品を開発してきたことがジンズの成長の原動力です。
── ブルーライトカットのメガネはどのメーカーも出していますね。
田中 目に影響が懸念されるブルーライトをカットする「JINS SCREEN」(ジンズ・スクリーン)は2011年に発売しました。最初に世に出したのは当社ですが、いまでは多くのメーカーが同じ機能のメガネを出しています。パソコンやスマートフォン、テレビなどから発せられるブルーライトは、紫外線と波長が近く、可視光線の中で非常にエネルギーが高く、網膜に到達するほどです。現代人は、ブルーライトと向き合う時間が着実に増えていて、特に子どもたちへの影響は深刻です。
── 子ども用の「JINS SCREEN」は売れていますか。
田中 ブルーライトから子どもの目を保護することへの社会的関心は高まっています。大人用はもちろん、子ども用の需要も拡大しています。
── ブルーライトの次にくる機能性メガネは。
田中 「JINS VIOLET+」(ジンズ・バイオレットプラス)の普及に力を入れています。目に必要と言われている波長360~400ナノ(ナノは10億分の1)メートルの紫光を選択的に透過しながら、目に有害な紫外線やブルーライトを遮断する独自設計が特徴です。最初は、成長期の子ども向けに販売していましたが、より幅広い層のニーズに応えたい。
集中力を高める
── 「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)も話題です。
田中 独自に開発した3点式眼電位センサーと6軸センサーから得られる目や体の動きの情報をもとに、「ココロ」と「カラダ」の状態や、そのバランスを推定します。東北大学加齢医学研究所長の川島隆太教授の監修に基づき開発されたアプリを使い、集中力や落ち着きといった人の心理現象・生理状態がわかります。また、体軸の安定性を把握し、歩き方の正しさや姿勢も判定します。
── 個人の健康データを分析するわけですね。
田中 「アタマ年齢」「カラダ年齢」と呼んでいますが、これらの年齢は日々のストレスを受けて時々刻々と変化します。変化を観察することで要因を分析し、改善に向けたさまざまなアドバイスを提供します。
── 単なるメガネの枠を超えた。
田中 テクノロジーや医学の進歩を展望すると、この先、近視を矯正するためだけのメガネは必要なくなるかもしれません。将来にわたって必要とされる会社になるには、新しい収益モデルを作らなければなりません。極端に言うと、メガネを無料で配ってしまい、そこをプラットフォームにさまざまなサービスを提供する、というのもあり得ます。
── 例えば、どのようなサービスですか。
田中 具体的にはこれからですが、メガネをかけることで未病を発見したり、精神的な不調の予兆をキャッチしたりなど、健康に関するメリットや気づきを与えるサービスが提供できれば面白いですね。
ワークスペース展開
── 会員制ワークスペースも開設しました。
田中 イノベーションにはコミュニケーションによりアイデアを集める「知の探索」と、ものごとを深く追究する「知の深化」の両方が必要です。当社は、世界一集中できる場所を目指し、本社オフィスの階下に「Think Lab(シンク・ラボ)」を作りました。実際、社員がオフィスとワークスペースで、どちらが集中できているかをジンズ・ミームで測定すると、ラボでの集中力が大きく上回っていました。
── 本格的なビジネス展開もありますか。
田中 直感ですが、大きく発展するビジネスの可能性を秘めています。誰もが、いつでもどこでも、好きな時間に仕事ができる場所があれば、通勤時間や多すぎる会議などさまざまな労働課題を解決できるはず。子育て中の主婦や高齢者など、働き手も増え、所得も上がります。考え方に賛同してくれる企業も多く、面白くなりそうです。
── 本業のメガネ店は、海外進出に積極的です。
田中 中国、台湾、北米に進出していますが、4月にフィリピン・マニラのショッピングモールにも出店しました。アジアは経済成長率が高く、質の高い店舗スタッフの確保も可能で、日本と同じビジネスモデルが通用する手ごたえがあります。今後もアジアを中心に海外店舗網を広げたい。
(構成=小島清利・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 独立し、雑貨店が成功し始めていましたが、次の成長を目指し、30代後半でメガネ店を始めました。
Q 「私を変えた」本は
A 山岡鉄舟の『剣禅話』は剣の極意についての書ですが、商売の極意も同じように「心の持ちよう」が大切だと思います。
Q 休日の過ごし方
A 故郷の前橋市の街おこしやスタートアップ企業の支援に取り組んでいます。私財と時間を惜しみなくつぎ込んでいます。
■人物略歴
たなか・ひとし
1963年生まれ。群馬県前橋市出身。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。88年、ジェイアイエヌ(現:ジンズ)を設立。2001年、アイウエア事業「JINS」(ジンズ)を開始。06年大証ヘラクレス(現ジャスダック)、13年東証1部に上場。17年4月ジンズへ社名変更。
事業内容:企画から販売までを一貫して行うSPA方式のアイウエア(メガネ)事業
本社所在地:東京都千代田区
設立:1988年7月
資本金:32億247万5000円
従業員数:3749人(2017年8月31日現在)
業績(17年8月期、連結)
売上高:504億5100万円
営業利益:54億200万円