「自動車用液晶に活路、黒字は必達」月崎義幸 ジャパンディスプレイ(JDI)社長 編集長インタビュー/921
自動車用液晶に活路、黒字は必達
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── 2017年度業績は営業損益が617億円、最終損益が2472億円のそれぞれ赤字でした。JDIは中小型液晶ディスプレーで世界シェア首位です。世界一であれば普通は利益が出るはずですが、赤字の原因はどこにあるのでしょうか。
月崎 一言でいうと設備投資が重すぎたということです。生産設備が過剰だったことは否定できません。
── 売上高の約8割はスマートフォン(スマホ)向けです。過剰設備に陥ったのはスマホの需要見込みを間違えたためですか。
月崎 モバイル(スマホ)用液晶は、需要の変動が非常に大きい商材です。需要が急増すると、顧客から、「とにかく出荷してほしい」と、当社のオフィスで座り込みされるような光景さえ目にします。従ってピーク需要にも応えられる生産能力を持つ必要があるのですが、冷え込むと設備過剰になってしまいます。そこが昨年度まで苦しいところでした。
── JDIはアップル向けの販売金額が多いですが、中国など他のスマホメーカーも市場でシェアを伸ばしています。設備能力が不足することはないですか。
月崎 16年12月に白山工場(石川県白山市)の第6世代生産ライン(1500×1850ミリのガラス基板使用)を稼働させたことで、ピーク需要に対する備えとしてはやや過剰でした。そこで昨年12月に能美工場(同県能美市)の5・5世代ライン(1300×1500ミリガラス基板)を停止し、当社が25%出資する有機ELメーカーのJOLED(東京都千代田区)に今年6月、同工場を売却しました。茂原工場(千葉県茂原市)にも第6世代ラインがあり、同世代の生産ラインが2カ所あればピークに十分対応することが可能です。
── 昨年度に構造改革を実施して、利益が出る態勢になったのですか。
月崎 生産設備の減損など特別損失1400億円を出しました。今年度から固定費が年間で500億円強減ります。筋肉質になりました。
── 減損は帳簿上の会計処理で、キャッシュフローが増えるわけではないのでは。
月崎 今年4月に350億円の第三者割当増資を実施し、能美工場の売却代金(200億円)も入りました。キャッシュフローに関しても一息つけました。
有機ELにも取り組む
── 有機ELディスプレーの取り組みに対する基本的な考えを聞かせてください。
月崎 ディスプレーを扱っている限り、有機ELも取り組む必要があります。当社が関わる領域として、蒸着タイプと印刷タイプの2種類の生産方式があります。モバイル用には蒸着タイプが向いており、これは茂原工場に量産試作ラインを入れて、開発段階から量産段階へ移ろうとしているところです。量産への設備投資は市場を見ながら進めます。印刷タイプは、JOLEDが手掛けていますが、解像度や画面サイズの点で自動車用や産業用に適しています。当社とJOLEDは開発、製造、販売の各段階で協業しています。
── ここに有機EL搭載のアップルのiPhoneがありますが肉眼では液晶との違いがわかりません。
月崎 モバイル用だと液晶も有機ELもほとんど見た目は変わらないと思います。ただ、自動車用だと違います。運転席前方のコックピットのディスプレーはデザイン性が重視されるようになり、曲面タイプの製品が増えています。有機ELのほうがディスプレーを曲げやすい。また、液晶と違い、背面から光を照射するバックライトがないため、画面が周囲の闇と同化した漆黒を映し出します。特に北欧のユーザーは夜道で液晶画面から漏れてくる蛍のような光を気にするようです。
車載用液晶はまだ伸びる
── いまはスマホ向けが売上高の8割近くを占めていますが、この比率は今後、どうするのですか。
月崎 21年までにはモバイル用と非モバイル用で半々の割合に持っていきたいと考えています。モバイル用を縮小するつもりはなく、非モバイル用を伸ばして、比率を半々に持っていきます。
── クルマ用の液晶と有機ELの需要はどのように伸びていきますか。
月崎 クルマの場合、モバイルと違って量産まで時間がかかります。有機ELについてはまだ各自動車メーカーも試行錯誤の状態です。世界の自動車の販売台数は年率2%くらいの伸びですが、自動車に搭載される液晶の伸び率は7%から10%ほどあります。クルマ1台に搭載される液晶の枚数や搭載車種が増えている中で、JDIの車載用液晶の伸びは10%を超えています。
── 車載用以外の強みは。
月崎 ウエアラブルデバイス(身体に装着できるデジタル機器)です。バックライトなしで動作する「反射型液晶」をウエアラブルに用いていて、市場シェアは世界一です。ほかに、頭部に装着するバーチャル・リアリティー(VR=仮想現実)装置用の液晶です。VRでは超高精細が要求されますが、JDIでは1インチ当たりの画素数が1000の製品を試作しました。既存の製品に比べて2倍の高精細です。今年後半で出荷が始まるかもしれません。
── 18年度の黒字は可能ですか。
月崎 必達目標です。今のところ計画通り進んでいます。
(構成・浜田健太郎=編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A ずっと液晶ディスプレーの設計を担当していました。当時はSTN(ネマティック)液晶の全盛期で、パソコンやワープロ向けに需要が急増し、その開発を任されていました。
Q 「私を変えた」本は
A 日立製作所の社長・会長を歴任した川村隆さん(現東京電力ホールディングス会長)の『ザ・ラストマン』です。JDIの社長就任にあたり再読しました。
Q 休日の過ごし方
A 自宅の庭の草刈りです。エンジン付きの専用機を使っています。広くて大変なんです。
■人物略歴
つきざき・よしゆき
1959年生まれ 千葉県立長生高校卒業、日本大学大学院理工学研究科修了、日立製作所入社。2014年JDI執行役員、副社長を経て18年6月から現職。千葉県出身。58歳。
事業内容:中小型ディスプレーの開発、製造、販売
本社所在地:東京都港区
設立:2012年4月
資本金:1144億円
従業員数:1万1542人
業績(18年3月期、連結)
売上高:7175億円
営業損益:赤字617億4900万円